AD における病因の程度を予測する血漿クラステリン
Nature Reviews Neurology
2010年9月1日
Alzheimer disease Plasma clusterin predicts degree of pathogenesis in AD
Archives of General Psychiatry に発表された研究によると、アミロイドの構造とクリアランスを調節するシャペロン蛋白であるクラステリンの血漿中濃度は、 血液ベースのバイオマーカーによってアルツハイマー病(AD)の発症リスクが高い人を特定することができる可能性を示唆している。筆頭著者である米国国立加齢研究所(National Institute on Aging)のMadhav Thambisetty は、「今回の研究の結果は、AD に関連したいくつかの経路における役割が明らかにされているこの蛋白質が、疾患の進展と密接に関与していることを示唆している」と説明している。
AD は重度の認知障害と関連した神経変性疾患であり、現在この疾患に対して利用できる疾患修飾療法はないのが現状である。Thambisetty は、「AD に対する効果的な治療法を開発する上での主要なハードル は、将来的にこの疾患を発症する人たちの脳内の早期の病理学的変化を正確に検出できるような、高価ではなく、また侵襲のない方法が現時点でないことである」と述べている。血液ベースのバイオマーカーは、そのような人々を特定し、モニタリングする一つの代表的な方法となる可能性がある。
Thambisetty らは、AD の疾患病理と臨床的進展を正確に予測することができる血液ベースのバイオマーカーを見いだすため、プロテオミクスと神経画像処理技術を組み合わせたアプローチ法を用いた。その結果、彼らは、クラステリンの血漿中濃度が、軽度の認知障害またはAD を有する患者の海馬および嗅内皮質(これら2 つの脳領域は疾患の早期段階で影響を受ける)の萎縮と正の相関性を示すことを発見した。さらに、AD 患者の別のグループを対象としたプロテオミクス解析を行った結果、認知機能の低下速度が速いと考えられる患者では、低下速度が遅い患者に比して、クラステリンのレベルが増加していることが明らかにされた。
PET 画像法を用いた結果では、血漿クラステリン濃度の増加が、嗅内皮質の線維性アミロイド-β(Aβ)の量と正の相関性を示すことも明らかにされた。またこの結果は、Aβ の脳内沈着と認知障害が顕著なトラ ンスジェニックマウスでも確認されており、クラステリンの血漿中濃度は、AD 様症状を有するマウスの方が野生型マウスよりも高かった。さらに、このトランスジェニックマウスでは、皮質のAβ プラークにクラステリンが含まれていることが示され、またAβ とクラステリンの沈着量は加齢に伴って増加した。
Thambisetty は、「われわれは、AD 患者の病理および症状のいずれとも関連すると思われるクラステリンの血液中の強いシグナルを特定できたことから、今回の知見がこの領域における重要な進歩であったと確信している。しかしながら、血漿クラステリン濃度はAD の決定的なマーカーではないと思われ、今回の結果によって、AD の血液バイオマーカーとして有用である可能性があるクラステリンのような、その他のアミロイド・シャペロン蛋白に関してさらに直接的な研究実施の準備ができた」と述べている。
doi: 10.1038/nrneurol.2010.122