パーキンソン病:パーキンソン病の非運動症状の治療
Nature Reviews Neurology
2010年10月1日
Parkinson disease Treatment of the nonmotor symptoms of Parkinson disease
パーキンソン病の早期フェーズおよび後期フェーズのいずれにおいても、運動機能障害の治療に関しては、劇的に進歩してきた。しかしながら、この疾患の非運動症状に対する効果的な治療法に関しては、まだ満たされていない重要な臨床上のニーズとして残されているのが現状である。最近行われた研究は、これらの症状のいくつかに関しては臨床試験が不足している点に着目している。
一般にパーキンソン病(PD)は典型的な運動障害と考えられており、多くのレビュー論文では、PD の病態生理は運動緩徐、固縮および振戦を引き起こす、黒質・線条体のドパミン欠乏であると要約されてい る。1960 年代前半に、線条体のドパミンの欠乏ならびにレボドパ療法の治療的有効性が発見された結果、PD を治療する試みは主としてドパミン補充戦略に焦点が置かれてきた2。にもかかわらず、PD の最 も早期の段階でみられる臨床症状には、睡眠・覚醒サイクル調節、認知、気分と動機づけ、自律神経機能、感覚と痛みのプロセシングなどの多くの機能に関連した、種々の非運動症状が含まれている3。症状に関してこのような多様性があることは、PD の広範囲な神経変性、すなわち黒質・線条体のドパミン系においてだけでなく、その他の様々な脳幹神経核や視床下部、嗅覚系、辺縁・新皮質領域ならびに末梢自律神経系においても病理変化が認められる(図1)ことを考慮すると、驚くべきものではない。疾患の進展に伴って、非運動症状の発現頻度や重症度は高くなる。また、非運動症状はQOL、全般的な障害の進展およびナーシングホームの設置の主要な決定因子である。したがって、疾患が進展した段階では、そのような症状は最も重要な治療上の課題となる。現在、PD のいくつかの非運動症状に対する治療選択肢を評価する診療パラメータが公表されており、このパラメータは米国神経学会(American Academy of Neurology)のQuality Standards Subcommittee から支持されている。
PD 患者における自律神経機能障害、睡眠障害、疲労および不安を特異的な標的とした介入法の有効性を評価するため、Zesiewicz らは、1966 年以降40 年以上の期間に発表された関連文献について、MEDLINE、Embase およびScience Citation Index を検索した。その結果、PD の非運動症状の治療について評価した論文が計523 報抽出されたが、特定の治療法の有効性に直接関連している適切かつ評価可能なデータが含まれていたのは、そのうち46 報(総数の10%未満)のみであった。さらに、この46 報の中で、事前に規定した自律神経機能障害、睡眠障害、疲労および不安の領域に関連していたものは25 報のみであった。期待しできなかった通り、これらの試験は症例数が少なく(10 ~ 20 例)、非無作為化試験であった。25 報のうち、12 報は自律神経機能障害の種々の側面に関連したもので、11 報は不眠、日中の傾眠または不穏下肢症候群(RLS)に関連したものであった。また、レボドパの抗不安作用を通常製剤と徐放製剤とで比較した単一施設のオープンラベル試験が1 試験、メチルフェニデートの疲労に対する効果を評価した試験が1 試験、特定された。
進展したPD を有する患者の30 ~ 60%は臨床的に明らかな自律神経症状を呈するにもかかわらず、クラスⅠの基準に合致し、また便秘、尿失禁、性機能障害または起立性低血圧を標的とした介入法について 評価した単一施設での無作為化コントロール試験は全くなかった。研究者らが見つけ出したクラスⅠの1試験のみが、神経原性の起立性低血圧に対するα1 アドレナリン受容体アゴニストであるミドドリンを用い た治療について述べていたが、含まれていたPD 患者は1 例のみであった。
RLS、不眠または日中の過度の眠気に対する治療効果について評価した11 試験のうち、プラセボ対照デザインを採用していたのは7 試験であった。これらの試験は、RLS または不眠に対するレボドパ-カル ビドパの効果(それぞれ1 試験)、不眠に対するメラトニンの効果(小規模な2 試験)、日中の過度の眠気に対する覚醒促進薬モダフィニルの効果(3 試験、症例数はそれぞれの試験で15 ~ 40 例)について検討していた。
Zesiewicz らによって特定された、PD の非運動症状の治療法に関するエビデンスが極めて貧弱であったことを考慮すると、診療パラメータの中で規定されている推奨事項のほとんどは驚くことではないが、「レベルU:治療上のベネフィットを支持または否定するには不十分なエビデンスしかない(起立性低血圧、尿失禁、不眠、不安または急速眼球運動睡眠行動障害に対する全ての治療法)」または「レベルC:おそらく効果があると考えられる治療法(男性の勃起障害に対するシルデナフィル、慢性の便秘に対する等張性マクロゴール、ならびに疲労に対するメチルフェニデート)」のどちらかに分類される。モダフィニルのみが、日中の過度な傾眠に対する患者の知覚を改善する「レベルA」の推奨事項であった。注目すべきことに、モダフィニルの試験データは、自動車の運転中に眠たくなるといったより重症の日中の眠気症状に対してこの薬剤が有効であるかどうかを結論づけるには不十分であった。
Zesiewicz らによるレビューの主な成果は、PD の自律神経機能障害、睡眠障害、疲労および不安(発症率および障害度が高い症状グループ)に対する治療法に関しては臨床的必要性があるということと、これらの症状を標的とした介入法の有効性や安全性に関する臨床試験データは不足しているということの間には矛盾がある、という点を強調したことである。なお、抑うつや認知機能障害のようなPD のその他の非運動症状においても、過去にこれとは別に行われた診療パラメータに関するレビュー8 の結果が示す通り、同様の問題点が存在している。実際には現時点までに、PD患者の抑うつの治療法に関する大規模なプラセボ対照無作為化試験が1 試験のみ実施・発表されており、PD 患者の認知症に関しても同様の報告がある。総括すると、今回の報告は、PD の非運動症状を標的とした治療的介入法に関する試験デザインが良好なコントロール臨床試験を実施することが、臨床研究の重要な優先課題として残されていることを示唆している。
doi: 10.1038/nrneurol.2010.87