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皮質形成異常:多小脳回を解明する

Nature Reviews Neurology

2010年9月1日

Cortical malformations Unfolding polymicrogyria

皮質発達の先天異常は一般に、てんかんや知的障害に関連している。多小脳回は最も高頻度にみられる皮質先天異常の一つであるが、大きな謎が残されている。今回、多小脳回患者を対象として新たに実施された多施設共同臨床・X 線検査試験の結果、この疾患の根底にある病因に新たな光を投げかける解剖学的パターンが見いだされた。

皮質発達の先天異常はてんかんや知的障害を高頻度に引き起こすが、それには主に4 つの形態があることが明らかにされている。1 つ目は脳回欠損で、これは大脳襞の減少としてみられ、脳に皺がない状態 (smooth brain)を引き起こす。2 つ目は皮質形成異常で、これは皮質の層状パターンが崩壊している状態で、異常ニューロンを伴う。3 つ目は白質線維束内への皮質灰白質の偏位で、異所形成としても知られる。4 つ目は多小脳回で、皮質表面の過剰な襞を特徴とする。これら4 つの形態は形態学的には全く異なっているが、同時にまたは折り重なってみられることもあり、実際にはそれらを鑑別することは難しい。

多小脳回は、最も高頻度にみられる皮質発達の先天異常の一つであり、現時点では病理検査がその診断のいわゆるゴールドスタンダードとされている。また、異常に薄く、崩壊した皮質で非常に多くの小さくかつ 融合した脳回という、多小脳回に関する初めての記述は、現在でも広く容認された標準的所見となっている。多小脳回の病因はまだ解明されておらず、複数のメカニズムが関与していると思われる。明らかにさ れている病因としては、胎児期における脳の灌流異常や酸素負荷、ならびに出生前生活期間中の感染症に関連した後天性の脳損傷であるという点である。発達期において、多小脳回は第2 トリメスターの早期から 第3 トリメスターの始まりまでの比較的狭い時間枠で発生すると考えられている。なお、いくつかの代謝性疾患の発症を伴う多小脳回が存在することから、他の病因メカニズムが存在する可能性が指摘されてい る。さらに、数例の患者で稀な遺伝的異常が発見されたことに加えて、家族性の発症例の報告が増加していることは、多くの症例では根底に遺伝的基盤があることを示唆している。この後者の推論は、多小脳回の 多くの症例では同じ分布状況を示すという知見、すなわち異なる遺伝的原因が同じ神経解剖学的パターンを引き起こすことを示唆している知見からも裏づけられている。

現在までのところ、この先天異常の臨床的および解剖学的な分布状況を特徴づけることができるような大規模な症例コホート、同様に、遺伝子を特定する研究の基盤となるような大規模な症例コホートがないこと から、多小脳回の病因の解明は妨げられてきた。現在、このニーズを満たすことを目指した重要なステップが構築されつつある。多施設共同研究において、高性能MRI に基づいて診断した乳児から成人までの年齢層の多小脳回患者計325 例が収集され、報告されている。本研究においてLeventer らは、多くの新規分布を付け加えただけでなく、多小脳回に関して過去に記述されている多くのパターンを確認した。

過去に発表されている逸話的な報告や、より小規模の症例シリーズと一致して、最も高頻度に認められたパターンは、Sylvian 溝の周囲の皮質(通常は両側性)にみられた。Leventer らおよびその他の研究者 らは、このパターンは、脳の血管の解剖学的構造およびある領域の低灌流への脆弱性を反映していると主張している。しかしながら、より広汎性の両側性の多小脳回、あるいは多小脳回と複数の脳室周囲の異所形成との併存といったその他のパターンの方が、遺伝的病因としてはより顕著な所見である。残念なことに、報告された症例に関しては、家族の情報が欠けていた。Sturge–Weber 症候群に関連した症例(2 例)、血管の先天異常、脳裂に関連した多小脳回、あるいはもう一方の例として、過去に切除された脳ヘルニア(脳の先天的なヘルニア形成)が背景にある裂溝に関連した多小脳回といった、より稀な形態も認められた。病理学者にはよく知られていることであるが、脳ヘルニアとの関連性は、画像検査を用いた場合に生じる固有の問題点の一つ、すなわち組織病理学的検査では明確にできるその存在が画像検査では正確に検出できない可能性があることを浮き彫りにしている。

Leventer らは、自分たちが多小脳回の診断に用いた基準は、画像検査を実際の病理学的研究と関連づけている文献の限られたデータから裏づけられていると確信している。しかしながら、現在実際に得られてい る解決のレベルはまだ、経験を積んだほとんどの神経放射線学者にとってさえも、しばしば不確かな状況に導くようなレベルにある。実際に著者らは、多小脳回をSturge–Weber 症候群における他の損傷した皮質と鑑別することの困難さについて言及している。われわれ個人の経験では、Sturge–Weber 症候群患者のてんかん誘発皮質の数多くの標本を検査しても、多小脳回は認められていない。一方、画像検査では特定されないにもかかわらず、従来、多小脳回は脳ヘルニアで認められている。この形態学的に詳細な部分はより興味深い側面の一つであるが、純粋な画像検査の研究では必然的に欠けている点である。多小脳回は、不完全な層を形成する不定なパターンを示し、これは病因に拠っているが画像検査だけでは特定できない。結局、細胞構築すなわち皮質の構築における局所の違いは、病理検査なくして判断することはできない。多小脳回に関する病理学的研究からは、一次視覚皮質はしばしば保たれている(画像所見上ではこの部位は影響を受けているように思われる)ことが明らかにされており、このことはおそらく、皮質の再構築の結果としての解剖学的位置の変化を反映していると思われる。

Leventer らの研究が与えた疑問の余地がない強みは、多小脳回患者をより明確に定義し、全く異なるサブタイプにグループ分けする機会が与えられたことであり、このことによって、今後、遺伝子を特定する機 会が実質的に高まり、またこの疾患の病因に関してわれわれはより多くの理解を得ることができるようになるであろう。多小脳回には遺伝的基盤があるというエビデンスは増えてきているが、同定されている候補 遺伝子は相対的に少ない。常染色体劣性遺伝は前頭部、前頭頭頂部、Sylvian 溝周囲および広汎性の多小脳回の両側性の形態を含む、多くのパターンによって引き起こされるが、現在までのところ、関連が指摘されている遺伝子(PAX6、TBR2、KIAA1279、RAB-3GAP1 およびCOL18A1)はほんの少ししかない。その病理学的な確証はいずれの症例でも得られていないが、GPR56 の変異は両側性の前頭頭頂部の多小脳 回と関連しているとされている7。また、特定の遺伝子における変異はまだ明らかにされていないが、X 連鎖型(Xq28)だけでなく22q11.2 の欠失に関しても、その関連が報告されている。Xq28 領域に局在するSRPX2 の変異は多小脳回に関連しているが、Xq28に関連した多小脳回ファミリーはSRPX2 変異を有していないと考えられている。

われわれは今、この皮質発達の非常に興味深く重要な先天異常について、その遺伝的および発生学的病因の概観を描くような、Leventer らの業績によって手助けされたさらなる研究の成果を待望している。

doi: 10.1038/nrneurol.2010.118

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