線維筋痛症の新規治療オプション
Nature Reviews Rheumatology
2009年4月1日
A new treatment option for fibromyalgia
FDAによるミルナシプランの承認は、線維筋痛症における疼痛回路の調節を目的とした薬剤開発における進歩を反映している。 線維筋痛症は全女性の約5%にみられ、リウマチ性疾患のうち、腰痛と変形性関節症に次いで3番目に頻度が高い疾患である。Nature Reviews Rheumatologyの2009年4月 号では、BoomershineとCrofford2が特定の症状を標的とする薬剤に焦点を当て、線維筋痛症治療のための実際的な薬物療法戦略を提案している。2009年初頭までにFDAが線 維筋痛症の治療薬として承認した薬剤は、2007年6月に承認されたpregabalin(Lyrica®; 米国Pfizer 社)および2008年6月に承認されたduloxetine(Cymbalta®; 米国Eli Lilly社)の2種類だけであった。2009年1月14日、FDAはミルナシプラン(SavellaTM; 米国Forest Pharmaceuticals社)を線維筋痛症治療薬として承認した。
FDAによるミルナシプランの承認は、米国を中心とする2件の第III相臨床有効性試験の結果に基づいている。1件は15週間、もう1件は27週間にわたり実施された。両 試験とも、成績評価には、同じ複合レスポンダー解析を採用した。線維筋痛症の疼痛治療の有効性は、ベースラインの疼痛から30%以上の改善(ビジュアルアナログスケール による)に加えて、患者の変化についての全体的な印象が「大きく改善」または「非常に大きく改善」であることと定義した。線維筋痛症の治療の有効性は、ベースラインの疼 痛から30%以上改善(ビジュアルアナログスケールによる)、SF-36健康調査票の身体的健康度スコアがベースラインから6単位以上改善、患者の変化についての全体的な印 象が「大きく改善」または「非常に大きく改善」であることと定義された。
15週間の試験4で、ミルナシプラン(1日100mgまたは200mg)群では、プラセボ群に比べ、疼痛および症候群に対する効果の複合基準を満たす割合が有意に高かった。 一部の患者では、疼痛の著しい軽減が早くも第1週目に観察され、試験終了時まで持続した。このほか、ミルナシプラン100mg および200mg の両群で、全体的影響 (Fibromyalgia Impact Questionnaire)、運動機能障害、疲労の各指標に有意な改善が認められた。さらに、ミルナシプラン200mg群では、SF-36精神的健康度スコアおよびBeckうつ病評価スコアが有意に改善された。FDAの統計学者が、二次解析で、抑うつの強い患者より弱い患者で奏効する頻度が高いことに言及しており、良好な複合転帰はミルナシプランの抗抑うつ効果によるものではないことが示唆された。
27週間の試験6では、試験開始後3カ月の時点で、ミルナシプラン(1日100mgまたは200mg)群はプラセボ群に比べ、疼痛および徴候に対する効果の複合基準を満たす患者数が有意に多かった。しかし、27週目の試験終了時に、疼痛に対する奏効率は、プラセボ群の患者に比べ、ミルナシプラン200mg群の患者のみで有意に高く、徴候に対する奏効率は、いずれのミルナシプラン群も有意に高くなかった。身体の痛みの症状、身体機能、精神的健康は、ミルナシプラン100mg群でも200mg群でも有意に改善された。さらに、ミルナシプラン200mg群では、15週目と27週目の両方で認知機能が有意に改善された。ここでも、FDAの統計学者が、良好な複合転帰はミルナシプランの抗抑うつ効果によるものではないことを指摘した5。6カ月の試験を問題なく完了した患者449例の1年間の追跡調査では、重篤な有害事象が発生することなく長期にわたり有効性が持続したことが報告された。
ミルナシプランは、セロトニン‐ノルエピネフリン再取込み阻害薬(SNRI)に分類される抗うつ薬であり、セロトニンとノルエピネフリンのそれぞれのトランスポーターに よる再取込みを阻害する8。このクラスの薬剤は、fluoxetineおよびcitalopramなど、主にセロトニンの取込みを抑制する選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)と は異なっている。現時点で市販されているこのほかのSNRIは、venlafaxineおよびduloxetineである。ミルナシプランは、これらの3剤のうち「アドレナリン作動性」が最も高く、duloxetineの1:10およびvenlafaxineの1:30と比べ、力価約1:1(セロトニン:ノルエピネフリン)でトランスポーターによる再取り込みを阻害する。ノルエピネフリンが、下行性疼痛抑制系(descending analgesic circuits)の活性化にきわめて重要な分子であるというエビデンスが増えており、かくして、バランスの取れたセロトニン:ノルエピネフリン比が疼痛管理の改善に有利に働くと考えられる。
ミルナシプランとduloxetineの比較を表1に示す。in vitro試験では、ヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、ムスカリン受容体、ドパミン受容体、オピエート受容体、 ベンゾジアゼピン受容体、GABA受容体などのその他の神経伝達物質受容体に対するミルナシプランの親和性はきわめて低く、このため、三環系抗うつ薬(TCA)の望ましく ない副作用のほとんどを回避できることが示されている。しかし、線維筋痛症治療のファーストライン薬として現在でも広範に使用されている大半のTCAは、セロトニンとノ ルエピネフリンのトランスポーターの両方を阻害する。この点で、ミルナシプランの再取込み阻害特性は、duloxetineやvenlafaxineよりTCAとの類似性が高い。
ミルナシプラン投与中に観察された有害事象はSNRIに典型的なものであり(表1)、患者の35%に悪心が報告された。この悪心は、ミルナシプラン投与を継続するうちに 弱まる傾向にあり、投与量を12.5mg 1 日2回から増量することが推奨される主な理由となっている。あらゆる抗うつ薬と同様、薬剤情報には、思春期および若年成人患者の 希死念慮ならびに自殺行動のリスク増加に関する「黒枠」の警告文がある3。血圧と肝機能の検査は、ミルナシプラン投与患者のルーチン検査の一部に組み入れる必要がある。 ミルナシプランとモノアミン酸化酵素阻害薬の併用は、セロトニンとノルエピネフリンの濃度を異常な水準まで上昇させるため、致死的な神経弛緩薬性悪性症候群もしくはセ ロトニン症候群が発現する可能性がある。同様に、セロトニン濃度に影響を及ぼす薬剤(他の抗うつ薬、トラマドール、トリプタン系薬など)とミルナシプランの併用は、セロトニン症候群を引き起こすリスクがあることから、慎重に検討する必要がある。一般に、ミルナシプランがP450による肝での代謝を受けないことは、他の薬剤と併用する際に は都合がよいはずである。
線維筋痛症の神経生理学的基盤に関する理解は深まりつつあり、ミルナシプラン、duloxetine、pregabalinといった薬剤は、いかにして製薬会社が特定の分子的機能不全を 標的とする分子を開発しているかを示す見本である。線維筋痛症はかつて、リウマチ疾患の中では顧みられない「みなし子(orphan)」的な存在であったが、現在では、ミル ナシプランのほかにも有益となりうる多数の製剤の試験が次々と実施されている。米国政府のClinical Trialsのホームページには、rotigotine、sodium oxybate、eszopicone、reboxetine、クエチアピン、nabilone、dronabinol、naltrexone、esreboxitine、armodafinil、neurotropin、etoricoxib などの線維筋痛症薬の臨床試験が記載されている。これは、この得体の知れない疾患に苦しむ米国約800万人の人々には朗報となることだろう。
doi: 10.1038/nrrheum.2009.48