自己免疫:CTLA-4:自己免疫における重要蛋白質
Nature Reviews Rheumatology
2009年5月1日
Autoimmunity CTLA-4 a key protein in autoimmunity
過去2年間に行なわれた研究により、制御性T細胞上に発現し、自己免疫を抑制するCTLA-4についての理解が深められ、さらにリウマチ性疾患に対するabataceptなどの蛋白質治療薬の作用機序についての知識が深まった。
CD4+CD25+FOXP3+制御性T リンパ球(TREG)は、自己反応性病原性細胞(autoreactive pathogenic cell)の活性化を阻害することにより、自己寛容の維持、ひいては自己免疫疾患の予防に重要な役割を果たしている。現在、さまざまな研究の結果から、TREG 上で特異的かつ恒常的に発現されている分子である細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)がこれらの機能のコントロールに重要な役割を担っていることが示唆されている。これらの研究結果は、自己免疫疾患の理解および治療に対し、さらに広い意義をもつと考えられる。
病原性となりうる免疫細胞は中枢性自己寛容により個体発生の途中で除去される。しかし、中枢性自己寛容も絶対確実とは言い難く、一部の病原性細胞がこの厳しいスクリー ニングを逃れ、末梢組織に到達し、自己免疫疾患や炎症を引き起こす。そこで追加的な末梢調節機序により、こうした細胞の有害な影響がコントロールされる。TREGは主な 末梢調節因子の1つである。
実験的モデルの研究や臨床試験から、遺伝子変異または人為的な遺伝子欠失の結果として生じたTREG減少により免疫系が破綻し、自己免疫疾患や炎症をきたすことが示されている。しかし、TREGがその効果を発揮する機序はまだ明らかになっていない。TREGの作用を説明するために、相互に影響しあう、いくつかの機序が提案されている。こうした機序の多くは、その意義についてin vivo で検証する必要があるが、その意味するところは、TREGが多様な経路で免疫系を調節するということである。
この点について、いくつかの論文で、TREGが免疫系の活性化を抑制し、ひいては自己免疫疾患を予防する際に果たすCTLA-4の役割について新たな知見が示されている。CTLA-4シグナリングは、TREGの細胞周期停止のコントロールに重要である。CTLA-4はTREGの増殖を阻害することにより、TREG を活性化誘発性細胞死から保護している。この細胞死には、Fas(CD95 またはTNF受容体スーパーファミリーのメンバー6として知られる)とFasリガンド(CD178 またはTNFスーパーファミリーのメンバー6として知られる)の相互作用が関与している。CTLA-4は、免疫監視細胞である樹状細胞(DC)上の共刺激分子であるCD80およびCD86と相互作用する。DCは、自然免疫と獲得免疫のインターフェースにおけるプロフェッショナル抗原提示細胞であり、抗原特異的ナイーブT細胞を刺激する能力をもっていることから、一次免疫応答の開始に中心的役割を果たしている。DCは抗原提示をするMHC分子および共刺激分子の細胞表面発現と免疫調節性サイトカインの分泌により、免疫応答の強さを規定している。CTLA-4はDCに抑制シグナルを伝達し、その結果DC上のCD80およびCD86の発現が抑制される。TREG特異的なCTLA-4を欠損させると、TREGのin vivo およびin vitro における抑制機能が損なわれる。共刺激分子は抗原特異的エフェクターT細胞の活性化に強力な刺激を与えるため、TREGによるCD80およびCD86の阻害によりエフェクターT 細胞のDC 依存性活性化能が低下し、ひいては免疫抑制および免疫寛容が起こる。TREGの活性化には組織環境および免疫応答の状況により、相互に関連しあったいくつかの経路があるが、上述の知見から、TREGの機能を規定する「主要」分子はCTLA-4であることが示される。
興味深いことに、CTLA-4ノックアウトマウスおよびTREG特異的にCTLA-4発現を欠いたマウスは、致死的な早期発症型リンパ増殖性疾患を発現する。さらに、関節リウマチ患者では、TREG上のCTLA-4発現およびシグナリングが健常者と比べて有意に低下しており、これはCTLA-4蛋白質の障害がTREGの機能異常が引き起こし、自己免疫を発症されることを示唆している。このため、CTLA-4は、治療標的として理にかなっている。自己免疫、および全身性エリテマトーデス患者でTREGが減少しているのは、CTLA-4の発現量、構造、安定性に寄与すると考えられるCTLA4遺伝子の特異的変異による。これらの知見から、関節リウマチおよび全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患患者におけるTREG機能の異常にCTLA-4の欠損が関係していることが推定される。したがって、患者のCTLA-4機能の欠 損を補償できる可溶性CTLA-4分子は、持続的寛解の誘導を目的とする治療の標的となりうることが示される。
選択的共刺激阻害薬であるabataceptは、CTLA-4の細胞外ドメインと免疫グロブリンからなる融合蛋白質である。前述の結果1,4から、abataceptは、CD80およびCD86に対 する内在的な高親和性によりDCを標的とし、エフェクターT細胞上で発現される共刺激蛋白質CD28の結合を競合的に阻害し、それによってDCによるT細胞活性化を抑制する。また、これらの知見から、活性化の初期段階にエフェクターT 細胞上で発現されるCD80とabatacept の相互作用は、薬剤の治療効果には重要ではないことが示唆される。
CTLA-4が免疫寛容を調節する機序を解明することは、基礎免疫学と免疫療法学の双方において広範な意義をもっている。さらに、TREG機能の分子的作用機序を明らかにすることにより、TREGの生物学およびこれを免疫療法に利用する方法について理解がさらに深まるものと思われる。その結果から、自己免疫疾患におけるCTLA-4を基にした分子(abatacept など)の治療的作用機序に関する知見が得られる。CD80とCD86の遺伝子多型とabataceptの治療効果の関係を明らかにする必要がある。さらに、炎症性サイトカインに対するモノクローナル抗体とabataceptの併用療法についての臨床試験が検討される可能性があり、自己免疫疾患患者における長期の免疫寛容が達成できると考えられる。
doi: 10.1038/nrrheum.2009.77