結合組織病:SScの治療に関する新たなエビデンスに基づくガイドライン
Nature Reviews Rheumatology
2009年6月1日
Connective tissue diseases New evidence-based guidelines for treating SSc
国際専門家委員会によって作成された全身性硬化症に関する推奨が、患者のケアに強い影響を及ぼすかも しれない。
全身性硬化症(SSc)は、まれな多臓器性結合組織病であるが、リウマチ専門医の多くは、診療で多数のSSc患者を診ているわけではない。さまざまな臓器病変を伴うSScの治療について、エビデンスに基づくガイドラインはこれまでなかった。実際に、SSc治療には一貫性がないことが示されており、国ごとに異なる可能性さえある。この問題に対処するため、European League Against Rheumatism(EULAR)Scleroderma Trials and Research Group(EUSTAR)は、この疾患の治療に関する一連の勧告を公表した。これらは、エビデンスに基づく系統的に作成されたSSc治療に関する初のガイドラインであり、リウマチ専門医と、本疾患を治療するその他の専門家を対象としている。
2006 年までに発表された文献によるエビデンスと、欧州、米国、日本の専門家の意見に基づき、同グループは、SScの種々の症状の治療について14項目の推奨を作成し、それぞれを支持するエビデンスのレベルを示した。ある治療法について推奨がないということは、その治療がふさわしくないという意味ではなく、裏づけとなるエビデンスが不十分である可能性を示している。この推奨では、SSc治療に利用できるデータの質がまとめて評価され、信頼できる結論を導き出すまでに必要なさらなる研究の範囲が特定されている。
他のメタアナリシス同様、薬物治療が必要な重症レイノー現象(RP)を有する患者に対しては、ニフェジピンなどのジヒドロピリジン系カルシウムチャネル遮断薬をファーストライン治療として用いることを委員会は推奨した。RPはSSc患者の95%以上に発生する。重症のRPや、治癒しつつある指潰瘍には、静注用iloprostなどのプロスタノイドを用いるべきである4。RPに対する5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害薬の有用性を支持するデータは、推奨とするには不十分である。ロサルタンなどのアンジオテンシンII阻害薬や、選択的セロトニン再取り込み阻害薬を用いた試験がいくつか実施されている。これらは、RPに対する代替的治療法となる可能性があるが、あまり多くのデータは得られていない。RPに対する補完代替治療は議論されていないが、最近のあるメタアナリシス5によれば、この領域の治験の大多数は否定的な結果に終わっている。2件の試験により、 指潰瘍、特に多発性指潰瘍の患者に対し、ボセンタンは新たな潰瘍の発生率を30 ~50%低下させることを示す治験が2つ報告された。したがってこの治療法は、カルシウムチャネル遮断薬、あるいは静注用iloprostが無効であった場合の、指潰瘍予防のための選択肢として推奨されている。
SScにおける肺動脈高血圧(PAH)に対しては、エンドセリン受容体拮抗薬のボセンタンとsitaxentan(文献検索の時点で、ambrisentanに関するデータは未発表)、PDE-5阻害薬のシルデナフィル(タダラフィル、バルデナフィルについてはデータなし)、静注用エポプロステノール(SSc治療に関してあまり大規模には研究されていないその他のプロスタサイクリンについても触れている)による治療を委員会は推奨している。SSc関連PAH には通常、カルシウムチャネル遮断薬による治療は無効である。PAHは右心カテーテル検査によってのみ診断可能であること、また一般的には、PAHの専門技術を備えた施設で管理すべきであることに注意しなければならない。
メトトレキサート治療が皮膚の線維化を回復させ、進行を遅延させ、あるいは予防することが、臨床試験によって示されている。したがってガイドラインでは、早期のびまん性SScにみられる皮膚症状の治療法として、メトトレキサート治療を考慮することが勧められている。最近報告されたメトトレキサートの治験の解析では、治療患者数が少なくてもきわめて良好な結果が示されている(訳者引用論文から意訳)。
中等症~重症の間質性肺疾患(ILD)に対しては、シクロホスファミドを考慮すべきである。SScにおける呼吸困難が、その他の原因を除外しなくてはならない。特に、ILDが誤嚥の結果生じたものではないことを確かめる必要があり、これは、適切な検査による臨床的評価によって判断することが可能である。注意すべき点として、この推奨のもととなった治験は、中等症~重症ILD患者を対象としているため、既知の毒性を考慮すれば、安定した軽症ILDにシクロホスファミド治療を行うことは、現段階では不適切であろう。
強皮症腎クリーゼ(scleroderma renal crisis:SRC)には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬による治療を行うべきである。この治療でクレアチニンの血清中濃度が上昇しても、中止してはならない。これらの薬剤の導入後、死亡率が顕著に低下したため、SRCに対するACE阻害薬の無作為化試験は、今後実施されることはないであろう。アンジオテンシンII受容体拮抗薬もレニン濃度を低下させるが、ブラジキニン濃度は上昇させない。アンジオテンシンII受容体拮抗薬は、SRCの死亡率を低下させないので、SRCの死亡率低下はブラジキニン濃度の上昇によるものと考えられている。血圧を迅速に低下させれば、腎合併症が減少するため、ACE阻害薬に降圧薬を追加して、SRCにおける高血圧を迅速に軽減することは適切な処置である。ステロイドは、SRCのリスクを上昇させるため、避けなければならない。必要であれば、低用量のみ使用すべきである。ACE阻害薬ではSRCを予防できない。高血圧が存在しなければSRCの診断が遅れ、予後が悪化する可能性がある、と考えている専門家は多い。そこで、早期のびまん性SSc患者は、目標値を念頭に置いて自身の血圧を定期的にモニタリングし、目標値を上回った場合は、ただちにかかりつけ医に連絡することが勧められる。
特にSScに関するデータは存在しないが、GERD(胃食道逆流症)にはプロトンポンプ阻害薬を、症状のある腸運動障害には消化管運動促進薬を、小腸細菌異常増殖には抗生物質を用いるべきである。
このガイドラインは、患者ケアに直接意義があるだけでなく、追加的な推奨を行う、あるいは現在の推奨を強化するために必要な新たな研究領域も言及している。いくつかの試験がすでに進行中であり(PAHに対する併用療法など)、それらの結果が得られたときには、現在の推奨が変更されることもあり得る。PAHに対しては治療を早期に開始し、併用療法の使用も考慮する方向になりつつある。強皮症関連PAHに対する抗凝固療法は、データが不足している。また、高用量シクロホスファミドの月1回投与と幹細胞移植を比較するSCOT(Scleroderma: Cyclophosphamide Or Transplantation)試験のデータは、登録が終了するまで得られないが、登録に時間がかかっている。SScの皮膚症状をより早期に改善することを目的とした治療法については、その他にも試験が計画されているか、進行中である。間質性肺疾患に対しては新たな治療法が多数発見されており、 有効性が見出されれば、SSc関連肺疾患においても検証される可能性が高い。現時点では、SSc関連関節炎(一部はびらん性であるがほとんどはびらん性でない)の治療法に関する指針がない。多くの臨床医は、全身性エリテマトーデスや関節リウマチにみられるような、別の疾患の炎症性関節炎に対するのに類似した治療アルゴリズムを用い、重症度に応じて、関節炎を治療している。治療可能なものを治療することがつねに重要である、というのが私の意見である。
臨床医にとって、これらの推奨は実用的であり、特に、無作為化対照試験によってエビデンスが得られている場合には、SSc治療の指針となるはずである。多くの合併症に対して、実証された治療法が存在し、EUSTARガイドラインでは、可能な限り、それらがファーストラインまたはセカンドライン治療として優先されている。これは、SSc専門の外来をもたないリウマチ専門医(大多数を占める)にとって、特に合併症が発生した場合に、著しく有用となる。しかし、このガイドラインの内容には合併症の診断的検査が含まれなかったことを強調しておかなければならない。PAHの有無について年1回心エコーでスクリーニングを行うことで、確実にPAH をより早期に発見することができる。そうすることによってPAHはおそらくあまり進行することがなく、死亡率も低くなることが期待される8。SScにおけるPAHは患者の少なくとも10~15%に発生し、その4分の1もが心エコーで異常を示すことから、このスクリーニングは重要である。強皮症の無作為化試験で対象とされた患者は、実地臨床で遭遇するSSc患者と同様ではないかもしれないとい うことも、認識しておかなければならない。EUSTARの推奨などの提言は、臨床医に有用となり得るが、SSc治療のエビデンスに基づくガイドラインを解釈する際には、臨床的判断がつねに求められる。
doi: 10.1038/nrrheum.2009.98