関節リウマチ:RA管理のガイドライン:広さか深さか
Nature Reviews Rheumatology
2009年6月1日
Rheumatoid arthritis Guidelines for the management of RA breadth versus depth
臨床ガイドラインにとって包括的であることは、その有用性を決める重要な要因であるが、広い範囲のトピックを深く掘り下げて扱うことは困難である。
臨床ガイドラインは、現在の「最善の診療」に関する推奨事項である。ガイドラインは専門家の組織が作成することが多く、医学文献のまとめを基盤とし、エビデンスが少ない場合は専門家の意見を補足する。男性骨粗鬆症のスクリーニングに関するAmerican College of Physiciansのガイドライン1のように焦点を絞ったものもあれば、診断、評価、治療、モニタリングに関する推奨事項を多岐にわたり含むものもある。British Society for Rheumatology(BSR)およびBritish Health Professionals in Rheumatology(BHPR)により新たに発表された、発症2年以降の関節リウマチ(RA)患者の管理に関するガイドライン2は、両学会が以前に発表した発症初期RAの管理に関するガイドライン3を補足するものである。以前のガイドラインは活動性滑膜炎の治療に重点をおいていたが、今回のガイドラインは適用範囲が広く、鎮痛薬の使用から治療アクセスにわたる20項目の推奨事項が含まれている。
American College of Rheumatologyが発表したRA管理に関するガイドライン4,5とは対照的に、BSRおよびBHPRによる新しいガイドラインは、抗リウマチ薬を用いた薬物治療に関する詳細な推奨事項は特に含めていない。RA活動性を抑制し、臨床寛解を得るための治療の必要性に関する推奨事項は含まれているが、薬物の使用に留まらず、整形外科手術、作業療法、理学療法、患者教育の利用に関する推奨事項を含んでいる。
このガイドラインの3つの面は注目に値する。第一に、共存疾患の管理がかなり考慮されている。心血管リスクファクターのある患者をスクリーニングして確認されたリスクを積 極的に治療すること、骨粗鬆症を評価して治療すること、またうつ病が存在する場合はその治療も行うことが推奨されている。これらの推奨事項は、患者を全人的にケアする必要があることを強調している。年1回検査を行うという考え方が示されている(しかし、その有用性を支持するエビデンスは限られている)。その際は、患者の目標および共存疾患の状態を含めて、患者の健康状態の長期的な経過を評価すると記載されている。第二に、このガイドラインは、患者を、自らの治療における活動的なパートナーとすることの重要性を強調している。臨床医や医療政策立案者(health planners)と並んで、患者がガイドラインの対象読者の一部とされている。全ての患者に対してRA に関する教育が推奨され、病院ベースのプログラム、体系的な自己管理クラス、患者同士のカウンセリングなどを用いることとされている。これらのプログラムには社会的支援も含まれ、また患者に医療提供者ともっと積極的に関わるための方法を教えることもできるが、これらの介入法について具体的には述べられていない。第三に、このガイドラインは、RA活動性を継続的にモニタリングすることにより、疾患が安定していることを確認して、再燃したり患者の状態が増悪した場合にすぐに治療できるようにする(電話での助言も含む)ことを推奨している。このガイドラインは、よいモニタリングを行うことで患者に何を提供すべきかについては明確だが、これらの目標を達成するために健康管理の提供をどのように組織するのが最善かについてはあまり明確ではない。プライマリケア提供者・専門看護師・リウマチ専門医の最も適切な役割、これらの医療提供者が責任をどのように分担するのが最善か、そしてケアの調整が、未解決の問題として残っている。
罹病期間の長いRAの管理に関するBSRおよびBHPRの新しいガイドラインは有用だろうか。ガイドラインとは、臨床上の決定に必要な情報を与えるために、エビデンスと推奨事項 を提供するものである。よいガイドラインは、明確で、指示的で、すぐに使用可能であり、特定の患者群と特定の問題を対象としており、評価可能な結果を設定する。Appraisal of Guidelines Research and Evaluation(AGREE)共同研究は、これらの基準とその他の基準を考慮し、臨床ガイドラインの質を評価するための枠組みを開発した。
BSRおよびBHPR による新しいRAガイドラインは、以下の点でAGREE基準を満たしていると考えられる。すなわち、ガイドラインの適用範囲の明確化、ガイドラインの対象となる患者の明確化、あらゆる利害関係者を含んでいること、医学的エビデンスの検索のために体系的な方法を用いていること、エビデンスを各推奨事項に関連づけていること、ガイドラインの外部レビューを行っており更新を予定していること、まとめを行いガイドラインの適用において使用すべきツールを提供していること、そして編集の独立性を確保していること、である。
しかし、このガイドラインは、いくつかのAGREE 基準は満たしていない。目的が一般的であり、特定の問題に焦点が絞られていない。文献レビューの選択基準、研究の選択基 準または除外基準がまったく述べられていない。文献のエビデンスから推奨事項に至る手順が示されておらず、食い違いが生じた領域をどのように処理したかも示されていない。これらの点はおそらく検討されたのだろうが、推奨事項の数が多いために、報告内容の詳細レベルを落とさざるを得なかったのだろう。潜在的な利害のバランス、そして、管理のための別の選択肢が示されているのは、わずかな推奨事項においてのみである。行政上の障壁およびガイドライン実施のコストについては一般的にしか考慮されておらず、各推奨事項において具体的に検討されていない。これらの点が不十分となったのは、ガイドラインの取り扱う範囲が膨大であり、内容の「深さ」よりも「広さ」を優先せざるを得なかったからかもしれない。
最も重要なことは、必ずしも全ての推奨事項において、特定の状況に適した管理法が、具体的かつ明確に記載されていないことである。例えば、「免疫抑制療法は感染症を悪化 させ、隠してしまう可能性があり、活動性感染症の場合は一時的な中止を考慮すべきである」という推奨事項では、どの患者、どの感染症、どの免疫抑制薬、どの状況にこのガ イドラインが適用されるのかという問題が未解決のままである。「疲労にはエネルギー温存法(energy conservation techniques)が奏効する可能性がある」という推奨事項は、医師に対して、いつどのような患者にこれらの手法を使うべきかを示していない。「治療の目的は、疾患活動性を最低限におさえることである」と目的が述べられているが、指示的ではなく実用的でもない。医師が何をなすべきかを述べていないため、これら個々の推奨事項は、診療においては有用性が低いだろう。
2009年のBSR およびBHPRガイドラインの発表は、Royal College of Physicians によるRA管理のガイドライン8の発表と同時であった。後者は早期RA および罹病期間の長いRAの両方に関する推奨事項を提供し、適用範囲が広く(診断を含む)、薬理学的管理法ならびに非薬理学的管理法、手術、集学的治療を扱っているが、医療サービスの提供や共存疾患の管理に関する推奨事項は含んでいない。このように、両ガイドラインはある意味で相補的なものである。Royal College of Physiciansのガイドラインは、明確な指示を示し、どのようにしてエビデンスから推奨事項が作成されたかについて示し、個々の推奨事項の適用に関する障害やコストの評価を行っている。つまり、広さと深さとを兼ね備えているのである。
doi: 10.1038/nrrheum.2009.90