代謝性骨疾患:トランスレーショナルリサーチ̶denosumabによる骨折予防
Nature Reviews Rheumatology
2009年12月1日
Metabolic bone diseases Translational research—preventing fractures with denosumab
1990年代後半、骨細胞生物学者たちは、RANKLを重要な治療標的として、これを阻害することにより骨粗鬆症を予防することを考えた。この理論は、今やdenosumabが骨折リスクを低減することを示した2件の研究で証明された。このトランスレーショナルリサーチの成功は、有害作用の長期モニタリングの必要性 を認識するとともに熟考されるべきである。
骨粗鬆症は、基本多細胞ユニット(basic multicellular unit:BMU)のレベルにおいて、骨吸収の増加と、骨形成に対する骨芽細胞の反応性の低下とのアンバランスによって生じる。つまり、閉経期のエストロゲン低下状態では、骨代謝回転速度が上昇し、活性化BMUの増加と個々のBMUにおける局所的なアンバランスが起こる。加えてエストロゲン欠乏により破骨細胞の寿命が延びてBMUレベルで負のバランスに傾くために、骨量減少の速度が上昇する。核因子κB活性化受容体リガンド(RANKL)は、破骨細胞の形成・機能・生存の重要なメディエーターである。破骨細胞活性の亢進は、骨粗鬆症の病態生理の中核をなしているため、RANKLの阻害は理にかなった治療標的である。Denosumabは完全ヒトモノクローナル抗体であり、RANKLに特異的に結合する。骨量の少ない閉経後女性にdenosumabを投与したところ、測定した骨格部位の全てで骨密度(BMD)の増加が認められ、骨代謝回転マーカーの低下も認められた。
New England Journal of Medicineで報告された2件のランドマーク的研究2,3で、denosumabが骨折リスクを低下させることが初めて明らかになった。1件目は、閉経後骨粗鬆症の女性7,868例を対象としてdenosumabとプラセボの6ヵ月毎の皮下投与を比較したCummingsら2の研究である。その結果、Denosumabは3年間で、X線学的新規脊 椎骨折のリスクを低下させた。累積発生率はdenosumab群2.3%、プラセボ群7.2%で、相対的減少率は68%であった。1つの脊椎骨折を予防するために必要な治療数は20 であった。対照患者と比較してDenosumab投与患者では股関節骨折の累積発生率も低く(0.7%対1.2%)、相対的減少率は40%であった。さらに、denosumabは脊椎以外の 骨折リスクも低下させ、累積発生率はdenosumab群6.5%、対照群8.0%で相対的減少率は20%であった。重要なことに、denosumabを投与しても、癌や感染症、心血管疾患、 骨折治癒の遅延、低カルシウム血症のリスクは上昇しなかった。顎骨壊死の症例はなく、denosumab投与による有害反応も認められなかった。
2件目の研究は、前立腺癌に対してアンドロゲン除去療法を受けている高齢男性を対象として、男性1,468例をdenosumabまたはプラセボの6ヵ月間毎の皮下投与に無作為に割り付けたSmithら3のものである。3年後、新たな脊椎骨折の発生はdenosumab群1.5%、プラセボ群3.9%で、相対的減少率は62%であった。有害事象を発症した患者数は、こちらでも2群で同等であった。
基礎的な骨細胞生物学研究で予測された治療標的が臨床試験でも有効であることが、骨粗鬆症の治療において初めて示された。このことは、トランスレーショナルリサーチの勝利を告げている。しかし、骨粗鬆症患者の臨床的管理に対する意義は何であろうか。確かに、現在では抗骨粗鬆症薬の選択肢は増えている。このことは、それぞれの薬剤で有効性と有害事象とのバランスがとれていることを意味している。Denosumabの治療効果は、臨床的に有意な部位全てで骨折を減少させることである。骨折をエンドポイントとしたdenosumabと他の抗骨粗鬆症薬との直接比較試験は行われていないが、denosumabで認められた脊椎骨折の減少は、ゾレドロン酸静注やテリパラチドと同等であると思われ、ビスホスホネート経口投与とラネリック酸ストロンチウムよりも大きい可能性がある4‒6。さらに、denosumabの他の部位における骨折予防効果は、少なくとも他の抗骨粗鬆症薬と同等であった。経口抗骨粗鬆症薬のコンプライアンスは12ヵ月で約50%であるが、denosumabはゾレドロン酸静注と同様、これらの薬剤よりも優れたコンプライアンスが得られるかもしれないが、今後適切な研究を重ねて確認する必要がある。
ビスホスホネート投与により、顎骨壊死と非定型的な骨幹部骨折が生じる。しかし、これらの病態はいずれも、骨粗鬆症に対するビスホスホネート経口投与に関する無作為化対照試験では認められなかった。患者9,863例を対象とした、骨粗鬆症に対するゾレドロン酸静脈内投与の2件のピボタルな治験で、の顎骨壊死に関する報告は、実薬群とプラセボ群で1件ずつであった。この病態は骨粗鬆症患者では非常にまれであり(100,000例あたり約1件)、ビスホスホネートが約10年間にわたり幅広く臨床使用された後で出現した。さらに、顎骨壊死はビスホスホネート投与でのみ認められるわけではなく、癌の治療を受けている患者ではdenosumabにも認められたことが、最近の報道で指摘されている9。これらの知見から、顎骨壊死の発症機序は、骨や周囲組織に対するビスホスホネートの特異的な作用ではなく、骨リモデリングの減少であることが示唆される。しかし、骨リモデリングの減少はdenosumabを投与中止すれば完全に回復する。したがって、他のビスホスホネート製剤とは異なり、denosumabではこれらの有害事象が起こりにくいことが理論的に予測できるだろう。この骨リモデリング抑制に関するdenosumabの可逆性は、骨折予防効果を持続させるためにdenosumab投与を継続しなければならないことを意味している。
Denosumabは他に、免疫細胞に対するRANKL阻害が免疫系に有害な作用を及ぼし、感染症と腫瘍のリスクを高める可能性があることが懸念される。幸いなことに、Cummingsら2とSmithら3の研究で対象とされた患者9,336例では、3年間で重篤な感染症や癌リスクの上昇は認められなかった。しかし、Cummingsらの研究では、denosumab群では、湿疹と入院を要する蜂窩織炎の発生率が対照群よりも高かった。現時点でdenosumabに関する最も長期間の治験では、患者6例で腫瘍が発現し、3例で重篤な感染症が認められた。一方、プラセボ群の46例ではこのような合併症は認められなかった。統計学的に有意ではないが、これらの結果はdenosumab投与を受けている患者に対して、特に有害事象が起こりやすい合併症を有する高齢患者に対しては長期間のモニタリングが必要なことを示している。
結論として、RANKL阻害が骨粗鬆症の重要な治療標的であることが、骨細胞生物学の観点から予測された。このRANKLと特異的に結合する完全ヒトモノクローナル抗体であるdenosumabの抗骨折効果が現在確認されている。特に合併症を有する高齢者に対しては、denosumabの有害作用に関する長期モニタリングが必要である。
doi: 10.1038/nrrheum.2009.234