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結合組織疾患:デュピュイトラン病の非外科的療法

Nature Reviews Rheumatology

2010年1月1日

Connective tissue diseases A nonsurgical therapy for Dupuytren disease

デュピュイトラン病に対する現在の主な治療法は手術であるが、重大な合併症をもたらし、再発率の上昇にも関連する。酵素的筋膜切開術enzymatic fasciotomyに関する第III相試験により、この消耗性疾患に対する有効な非外科的療法の進展が見込まれる。

Guillaume Dupuytren男爵が初めて手術を行った手の不思議な様相は、当初デュピュイトラン拘縮(Dupuytren contracture)と称されたが、患指が必ずしも屈曲変形の状態で固定しないため、現在ではデュピュイトラン病(Dupuytren disease: DD)という用語が広く採用されている。DDは、頻度の高い手の結合組織疾患と考えられており、主に北欧系の人々に発生する。DDの正確な原因は明らかにされていないが、遠位手掌皮線近傍に限局する結節を典型的な症状とする。進行の期間はさまざまであるが、結節は手掌から指に至る線維性索状組織を形成し、中手指節関節(MCPJ)の拘縮を引き起こす。結節や索状組織は指に生じることもあり、これが近位指節間関節(PIPJ)の拘縮をもたらす。MCPJとPIPJの拘縮により、罹患関節は永久的かつ不可逆的な屈曲拘縮をきたす。

DDはきわめて頻度が高く、医師の大半は本疾患を診察する機会があると考えられるが、徹底的な研究が長年行われたにもかかわらず、本疾患に対する至適な臨床管理法は十分に 定まっていない1。DD患者は、予測のつかない疾患経過に苦しめられ、QOLが低下し、罹患した手の機能が大幅に損なわれる。このため、臨床医が現行および新規の治療選択肢に 関する明確な指針と知識を備え、確信をもって、適切な時期に手を専門とする外科医へ照会することが重要である。

DD治療の主流は手術だと考えられている。手術の至適時期は、手の機能に影響を及ぼす変形(functional deformity)およびMCPJとPIPJの拘縮が明確に進行したときと考えられている。術後の機能的転帰は、拘縮の持続期間と重症度など、いくつかの要因に左右されるが、PIPJ拘縮のほうがMCPJ拘縮より転帰は不良となる。本疾患はその病 態の性質から術後再発することもあるが、再発率は、皮膚-筋膜切除術(皮膚と筋膜の両方を切除)のほうが筋膜切除術(筋膜のみ切除)と比べて大幅に低下する。

手術以前に考慮すべき重要な事項は、「デュピュイトラン体質(Dupuytren’s diathesis)」である。これは予後不良の指標となる一連の患者特性を指すが、急速進行性の疾患経過と高い再発リスクを伴う。デュピュイトラン体質の特性としては当初、両側性発症、民族(特に北欧系)、「異所性病変」(足底、陰茎、中手指節関節の拘縮など)の存在、DDの家族歴があげられた。その後この一覧は見直され、男性であることおよび発症時年齢50歳未満が追加され、家族歴については、DDである兄弟姉妹または親が1名以上と定義し直された。

筋膜切除術は現在でもDDの治療法として最も多く実施されている。しかし、患者すべてが手術の施行に積極的なわけではない。陽性体質(positive diathesis)の患者は拘縮の早期再発リスクを恐れるため手術を遅らせると考えられる。また、一部の患者は、手術プロセスそのもの、麻酔、回復期、手術合併症、離職期間、手のリハビリテーションの必要性に対する懸念から手術を遅らせる。また、既存疾患の存在、高齢、社会的支援や在宅支援の弱さや欠如により手術適応の候補とみなされない場合もある。このため、非外科的療法が数多く検討され、DDの治療に用いられてきた。例としては、高圧酸素、放射線、超音波療法、ビタミンE、理学療法、ステロイド注射、インターフェロン、副子固定があげられる。このような研究にもかかわらず、DDの管理に臨床上の有効性を示した治療法はほとんどなかった。例えば、ステロイド注射は圧痛や結節痛の管理に有効であったが、拘縮解消や再発予防には実質的効果を示さなかった。

DDの線維性組織の形成と拘縮をもたらす病理学的過程を理解するためには、コラーゲンの合成と沈着を異常に増加させる細胞イベントが重要だと考えられている。このため、ク ロストリジウム属由来コラゲナーゼ注射による酵素的筋膜切開術への関心が高まっている。本治療法が、DDの過剰なコラーゲンの沈着を標的としており、MCPJおよびPIPJ拘縮を引き起こす線維性索状組織を断裂させるためである。

これまでに発表された多数の試験では、DDに対する非外科的療法としてヒストリチクス菌(Clostridium histolyticum )由来のコラゲナーゼ注射の臨床上の安全性と有効性が示されている。そのような試験には、患者35例を対象とした第II相非盲検試験や、一連の第II相無作為化二重盲検プラセボ対照試験6-8(それぞれ49例、80例、33例)が含まれる。今回、前向き第III相多施設共同試験の結果が発表され、ヒストリチクス菌由来コラゲナーゼ注射がDDに関連したMCPJおよびPIPJ拘縮の治療に有効であることが確認された。

本試験では、ヒストリチクス菌由来コラゲナーゼ0.58mgまたはプラセボを関節拘縮の主因となっているコラーゲン索に30日間隔で最高3回注射する群に、患者308例を2対1の 割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は、最終注射日30日後に、関節拘縮が0~5°の完全進展まで改善することであったが、その達成率は、コラゲナーゼ注射群のほうが プラセボ注射群より高かった(64.0% vs 6.8%、P<0.001)。コラゲナーゼ群の拘縮関節の可動域はプラセボ群と比べて有意に増大した(平均改善度36.7° vs 4.0°、P<0.001)。だが著者らは、拘縮の重症度が低い関節のほうが、拘縮の重症度が高い関節に比べてコラゲナーゼによる治療に反応する割合が高かったと述べている。このため、拘縮が重症で長期化した関節、および関節周囲線維症を併発した関節は、本法による治療には適していないと考えられる。さらなる試験により拘縮関節の直接的画像化を検討することが、注射前の候補関節の評価に役立つと考えられる。

ヒストリチクス菌由来コラゲナーゼを投与された患者の96%以上に、治療関連有害事象が1つ以上報告されたのに対し、プラセボ注射群では約21%であった。コラゲナーゼ 群では、最も報告頻度の高かった有害事象は限局性の腫脹および疼痛であり、その重症度は軽度から中等度であった。しかし、このうち3件が重篤な有害事象であり、その内訳は 腱断裂2件および複合性局所疼痛症候群1件であった。腱断裂は破滅的な合併症であり、その発生原因を正確に確認するためにはさらに詳細なデータが必要である。腱断裂の原因はさまざまであるが、例としては治療を実施した臨床医の年功や経験、注射技術、拘縮指の重症度、または症例により超音波ガイドで注射する必要性があることがあげられる。 屈曲または握力、全身性アレルギー反応、神経損傷に有意な変化は認められなかったと報告された。しかし、本試験は期間が短かったため、再発率の評価や長期転帰データの提 示はできなかった。

要約すると、現在までに示されたエビデンスから、DDにより引き起こされる関節拘縮の非外科的抑制アプローチとして酵素注射は優れており、特に手専門の外科医が慎重に選択 された患者に施行すれば効果が高いことが示唆される。本治療アプローチについては、再発率および長期のベネフィットと安全性を評価するために、さらに研究を行う必要がある。

doi: 10.1038/nrrheum.2009.255

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