ヘッジホッグシグナル伝達の遮断によるOA治療の可能性
Nature Reviews Rheumatology
2010年2月1日
Osteoarthritis Blocking hedgehog signaling might have therapeutic potential in OA
ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路は軟骨細胞をはじめとした多種の細胞の分化と増殖を調節するため、正常な骨格の発達に不可欠である。まもなくHhシグナル伝達を遮断する薬物がある種の癌の臨床試験に使用される予定である。軟骨細胞が変形性関節症(OA)の発症に中心的な役割を担うことを考えると、この薬剤の治療可能性はOAにも拡大できるのではないだろうか。この疑問を解明するには、まず、Hhシグナル伝達がOAの発症機序にどのように関わっているのかをもっと理解する必要がある。このテーマに関する論文がNature Medicine に発表されたばかりである。
「マウスの肉腫発症におけるヘッジホッグシグナル伝達の役割を調べていたとき、われわれは思いがけない発見をした。マウスはヘッジホッグシグナル伝達が活性化されると OAを発症したのである。この観察に基づき、マウスとヒトを用いてOAにおけるヘッジホッグシグナル伝達の役割を研究しようと決めた。」と本論文の主研究者であるBenjamin Almanは説明した。
まず、トロント大学小児病院(Hospital for Sick Children)の研究者らは、人工膝関節全置換術施行患者の変形性関節症の膝関節検体および内側半月板切除術により外科的にOAを誘発したマウスで、Hhシグナル伝達が活性化されるかどうかを調べた。ヒトおよびマウスでは、最も重度のOA(国際軟骨修復学会[ICRS]評価尺度で判定)に分類された膝関節が関節軟骨のHh下流標的遺伝子(GLI1、PTCH1、HHIP)を最も高レベルで発現したことから、OAに罹患したマウスおよびヒトではHhシグナル伝達が活性化されることが確認された。
次に、AlmanらはHhシグナル伝達が活性化される異なる3系統のトランスジェニックマウスを用いて、このようにシグナル伝達が亢進すると、対照マウスに比べてOAを発症し やすいのかどうかを検討した。トランスジェニックマウスがOAを発症したばかりでなく(対照マウスは発症しない)、重症度(ICRS評価尺度による)とHhシグナル伝達活性化レベルは直接相関していた。
Hhシグナル伝達遮断はOA発症にどのような影響を及ぼすのだろうか。Almanは「われわれは、トランスジェニックマウスとヘッジホッグ遮断薬投与マウスの両方を用いて、 ヘッジホッグシグナル伝達を阻害すると、関節内損傷後に発症するOAの重症度がかなり低減することを明らかにした。」と述べた。ヒト軟骨片器官培養でも同様の結果が認め られた。薬理学的なHhシグナル伝達遮断により、OAマーカー(例、a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motif 5[ADAMTS5]やruntrelated transcription factor 2[RUNX2])の発現は低下したが、Hhリガンドを投与してHhシグナル伝達を亢進させると、これらマーカーの発現は上昇した。
どの下流経路が関与するのかを詳細に分析するためさらに実験を続けたところ、Hhシグナル伝達はRUNX2に対する直接的な作用を介して、OA発症時の損傷の主要メディ エーターとして知られるADAMTS5の発現を間接的に上昇させることが判明した。
ドイツのライプチヒ大学病院病理学研究所Tom Aignerはこの研究について尋ねられると、「このアプローチは技術的に確かで、マウス軟骨の生物学的特性に興味深い洞察を 与えてくれる。」として賛同を示した。しかし、一方で、これらのデータとヒト疾患との関連性について「マウスは用途が広い試験系ではあるものの、ヒトOAの適切なモデルではない。マウスの関節軟骨はヒトの関節軟骨よりもはるかに薄く、構造が異なり、マウスの成長板は閉鎖せず、われわれが知る限り、マウス軟骨のホメオスタシスや変性の機序はヒト軟骨の場合と異なるからである。」と懸念を表明した。
以上のことから、本研究はOAにおけるHhシグナル伝達の役割について洞察を与え、遺伝的または薬理学的にHhシグナル伝達を遮断すると関節変形が抑制され、その結果OAの重症度は低減することを示唆している。Almanがトロント大学のプレスリリースで説明したとおり、「われわれは関節破壊を抑制し進行を緩徐化する非常に有望なアプローチを発見したのかもしれない。」
doi: 10.1038/nrrheum.2009.270