リツキシマブは短寿命の自己反応性形質芽球を標的にする
Nature Reviews Rheumatology
2010年5月1日
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自己抗体の産生は、関節リウマチなどの自己免疫疾患の鍵を握る病因的要素(pathogenetic component)である。これらの自己抗体を多量に産生するのがB細胞であり、そのため数多くの抗リウマチ療法の標的となっている。そのような治療法の一つである、抗ヒトCD20(hCD20;B細胞特異的表面マーカー)キメラ型モノクローナル抗体のリツキシマブは、B細胞を枯渇させ、関節リウマチを含むいくつかの自己免疫疾患に有効性を発揮している。しかし、リツキシマブがB細胞枯渇を誘導し、自己免疫を改善させる厳密な機構は、完全には解明されていない。Huangらは、K/BxN炎症性関節炎マウスモデルにおいて、リツキシマブの作用を検討した。
彼らは、hCD20導入遺伝子をもつ細菌人工染色体をマウスに導入した。この遺伝子導入をしなかったマウスを対照とし、遍在的に発現した自己抗原グルコース-6-リン酸イソ メラーゼ(GPI)に反応して関節炎が自然発生した後、リツキシマブ1mgを週1回投与した。hCD20+マウスにおいて、血清抗GPI抗体価が経時的に低下した一方、総抗体価(total antibody titers)には顕著な変化がみられなかった。対照マウスでは、同様の抗GPI抗体価の低下は認められなかった。
リツキシマブによって、血清抗GPI抗体価は低下したものの、総抗体価は低下しなかったことから、抗GPI抗体産生細胞が何らかの形でリツキシマブによって特異的な標的にされていると考えられた。8週齢の関節炎マウスの骨髄、脾臓、リンパ節、末梢血、腹膜腔から採取した細胞試料では、酵素免疫スポット(enzyme-linked immunosorbent spot:ELISPOT)アッセイにより、脾臓とリンパ節には極端に多い抗GPI抗体産生細胞が存在する一方、寿命の長い形質細胞が通常存在する骨髄では、その数がきわめて少ないことがわかった。これらの抗体産生細胞をさらに解析すると、形質芽球であることが判明した(すなわち、形質細胞への分化の初期段階)。形質細胞はCD20を発現すると考えられるため、これらのマウスの抗GPI抗体産生形質芽球に、Bリンパ球と比べて低濃度ではあるが、hCD20が存在したことは予想外の結果であり、これらの細胞がリツキシマブによる枯渇の影響を受けやすい理由を説明している。脾臓とリンパ節に存在するこれらの病原性形質細胞は、寿命が長い傾向がある通常の形質細胞と比べて、代謝回転率が高く、寿命が短いこともわかった。
この論文で示されたデータから、主に短寿命のCD20発現形質芽球から産生される自己抗体が重要な病原的役割を果たすことを特徴とする自己免疫疾患において、リツキシマブ の有効性は最大となる可能性が高いことが示唆される。特に同様の動物モデルを用いた、さらなる研究によって、この問題が解明され、リツキシマブ療法に感受性を示す疾患が特定されると考えられる。
doi: 10.1038/nrrheum.2010.53