増殖因子の相乗効果が線維芽細胞様滑膜細胞をRA表現型に誘導する
Nature Reviews Rheumatology
2010年7月1日
Rheumatoid arthritis Synergistic effects of growth factors drive an RA phenotype in fibroblast-like synoviocytes
増殖因子とサイトカインの相互作用は、関節リウマチ滑膜の慢性炎症における複雑な微小環境を構成するのに重要な役割をはたしている。しかし、動物モデルにヒト疾患を反映させることが困難であるため、これらの相互作用についてはまだ解明が進んでいない。Sanna Rosengrenらのin vitro 研究により得られた結果から、形質転換増殖因子β(TGF-β)および血小板由来増殖因子(PDGF)は、相乗的に作用して、腫瘍壊死因子(TNF)刺激滑膜線維芽細胞をより 侵襲的な表現型に誘導することが示唆された。「関節リウマチの治療において確立された標的であることからTNFなどのサイトカインを選択し、これらをリウマチ滑膜に存在す る増殖因子と併用した」と、筆頭著者であるDavid Boyleは説明する。
著者らは、TGF-βとPDGFの組み合わせ(以下2GF)は、TNF刺激線維芽細胞様滑膜細胞からのインターロイキン-6ならびにマトリックスメタロプロテアーゼ-3のRNAおよびタ ンパク質の産生を亢進すると述べている。さらに、このような2GFの促進作用は、TNFによる刺激を与える最長6時間前に細胞に添加した場合にも認められた。著者らは、TNFと 2GFの同時処理15分後に、c-JunのN末端キナーゼ(JNK)のリン酸化が大幅に増加したことも明らかにし、JNK依存性経路を介した2GFシグナル伝達が示唆された。そして、特 異的経路の阻害薬を用いた別の実験では、2GF活性に関与する可能性が最も高い経路の候補としてホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)経路が特定された。
興味深いことに、Boyleの研究チームは、線維芽細胞様滑膜細胞における2GFによる炎症性サイトカイン濃度の上昇が、メシル酸イマチニブ処理により阻害される可能性 も明らかにした。メシル酸イマチニブは受容体チロシンキナーゼ阻害薬であり、関節リウマチ(RA)の治療薬としてGleevec®の名称で現在試験中である。
著者らは、TGF-βとPDGFは、滑膜細胞の反応をRA表現型となる方向へ誘導することを示唆しており、この結果から、PI3K経路を標的とした治療がさらに有望になるとコメ ントしている。「増殖因子のシグナル伝達を標的とすることは、宿主防御に対する影響を最小限に抑えつつ、RA滑膜炎におけるサイトカインやプロテアーゼ産生を抑制する間接 的な手法であると考えられる」と、Boyleは結論している。
doi: 10.1038/nrrheum.2010.92