診療ガイドライン:関節リウマチの非薬物療法に関する新ガイドライン
Nature Reviews Rheumatology
2010年5月1日
Clinical guidelines New guidelines on nondrug treatment in RA
関節リウマチ(RA)の実地診療に非薬物療法の新しい診療ガイドラインを用いることによって、患者は適切で包括的な治療を受けやすくなる。このガイドラインは、治療の目的と適応に基づいて分類されており、自己評価と診療の改善に関する一連の質の基準を盛り込んでいる。
Forestierらは関節リウマチ(RA)の非薬物療法に関する臨床診療ガイドラインをJoint Bone Spine の2009年12月号に発表した。精力的な文献検索と専門家の意見 に基づいたこのガイドラインでは、有酸素運動、動的筋力強化、そして治療的患者教育が最も信頼できるエビデンスレベルを有しており、RAの非薬物的治療として 最も有効であるとされている。
今日、薬物治療によってRAの疾患活動性を緩和し、関節破壊の進行を阻止することができるが、依然多くの患者では完全寛解に至っておらず、非薬物療法もしばし ば必要となるため、このような推奨事項は非常に重要である。RAと早期RAの一般的治療、および早期RAの非薬物療法4に関する以前のガイドラインでは非薬物療 法に関して具体的ではなかった。RAの一般的治療に関する英国のガイドライン5はより詳細であったが、その範囲はRA診断後2年間に限定されていた。
Forestierらのガイドライン1は推奨事項が、治療目的と3種類の適応によって分類されている点が独特である。推奨事項は、全患者に対しての推奨、臨床・社会 福祉に基づく、あるいは職場評価における推奨、補助的療法としての推奨にわかれている。これまでの診療ガイドラインでは、非薬物療法をすべての患者に行うべき か、または特定の患者に対してのみ行うべきか明確ではなかったため、治療の選択が臨床医によって曖昧になってしまうことが多かった。
ForestierらのRA治療ガイドライン1は、これまでのガイドライン2‒5と似通っているものの、温泉療法、スパ・セラピー、マッサージ、鍼治療、オステオパシーなど、 はるかに広範囲の治療法を扱っている。新旧ガイドラインの差は、これらが作製された国では、上述の治療法が「補足的」または「代替的」と位置づけられ、そもそ もガイドラインの範囲外と考えられていたからであろう。 Forestierらの推奨した治療法は、従来のガイドラインで扱われたものとほぼ同じである。現在利用できるす べてのガイドラインでは患者教育、そして有酸素運動、あるいは筋力増強運動が推奨されている。筋力増強訓練が含まれていることは、RAにおける動的運動の安全 性が、現在では一般的に認識されているからである。
関節保護、作業療法、装具療法、職業カウンセリング、フットケア、食事療法、理学療法は、これまでのガイドラインのいずれかに含まれており、食事療法と理学療法 を除き、すべてのガイドラインで推奨されている。
Forestierらの推奨事項の特徴は、就業上の支障に対処するための比較的詳細なガイダンスを示していることである。就業上の支障は、RAによりもたらされる重要 な障害であることが以前から知られているが、臨床診療で常に取り組まれているわけではない。これをガイドラインとして公表することは、個々のRA患者の就業上の 問題を早期に明らかにし、適切な治療や紹介を行う上で有用である。さらに、臨床診療でも研究でも現在あまり取り上げられていないもう1つの領域であるフットケ アが、Forestierらのガイドライン1では十分に考慮されている。
食事の改善、体重コントロール、運動を含めた心血管リスク管理もこの新しいガイドラインで扱われているが、禁煙は推奨されていない。これとは対照的に、 英国5と欧州リウマチ学会(EULAR)6のこれまでの推奨では、RAやその他の炎症性リウマチ疾患の患者には、禁煙を強く勧めている。
新ガイドラインのもう一つの興味深い点は、オンライン論文にある補足記事に記載されている基準を用いて、自己評価と医療サービスの改善を、質的に評価できることである。これらの戦略には、推奨に準拠するために何を行う必要があるのかをリウマチ専門医が判断する際に役立つ特別な方策が含まれている。しかし、これらの方策を実施するには、大半のリウマチ専門医は診療手順を大幅に変更すること、特別な訓練を要しない程度の専門的スキルが必要となる可能性に注意しなければならない。
新しいガイドラインには利点がある一方、いくつかの限界もある。第一に、文献検索の対象となったのが、2006年までに発表された論文のみであったことである。 文献検索からガイドライン発表までに3年が経過しているため、改訂作業がすぐに必要となるだろう。第二に、このガイドラインは1ヵ国(フランス)で作成されている。 医療制度が異なり、RAケアの組織も異なるため、一部の推奨は他の国では適用できない。例えば、一部の地域では、一般開業医は患者教育や職業障害対策には関 与できない。第三に、著者らは、RA患者が適切かつ状況に応じた治療を受けやすくなることがガイドラインの目的であるとしているが、ガイドライン作業グループ18 人に患者の代表者が1人しか参加していないのは不適切と考えられる。最後に、このガイドラインは厳格な方法に基づいて作成されたが、推奨の一部(使用対象者お よび改訂方法の定義など)に関する記載の内容は不十分である。現在の診療ガイドラインの内容を正式に評価するためには、Appraisal of Guideline Research and Evaluation(AGREE)Instrument8などの一般的に認められた評価ツールを適用することが推奨される。
結論として、ForestierらのRA非薬物療法に関する新しいガイドライン1は、RA患者に提供されるケアの質向上に大きく貢献すると考えられる。有効性が明らかにさ れている非薬物治療が十分に使用されていない場合が少なくないことから、この推奨の発表は重要である(おそらく、従来の他の推奨が非薬物治療に関して簡潔す ぎて明確でなかったことが、広く普及していなかった原因だろう)。しかしながら、ケアの質を改善するには、ガイドライン作成だけでは十分でないことに留意すべき である。日常診療ではガイドラインが適切に利用されていない場合も多く、しばしばガイドライン実施のための積極的な戦略が必要になってくる。また、ガイドライン 以外の方法(生涯医療教育や患者日常ケアのモニタリングをするコンピュータアプリケーションの導入など)も求められよう。
doi: 10.1038/nrrheum.2010.59