小児リウマチ:JIAに対する治療基準̶質の基盤
Nature Reviews Rheumatology
2010年7月1日
Pediatric rheumatic disease Standards of care for JIA—the basic foundation for quality
医療の質を語るとき、治療基準とは、ある特定の患者集団において最適な健康転帰の達成に必要な、基本原理と土台を確立するものである。英国における英国小児・思春期リウマチ学会(British Society forPediatric and Adolescent Rheumatology:BSPAR)の若年性特発性関節炎(JIA)の治療基準(Standards of care)は、この基盤作成の優れた一例である。
医療の質を広義で述べると、どこで誰が治療を提供するのか(治療基準)、どのように提供するのか(質のプロセス測定)、そしてなぜ特別の治療を施すのか(診断・管理・ 治療ガイドライン)、といった複数の要素を包含している。治療基準(Standards of care)は、医療の基盤を包含するもので、質の高い治療により望ましい結果の達成を可 能にさせる。英国小児・思春期リウマチ学会(BSPAR)のDaviesら1は最近、小児および若年者の若年性特発性関節炎(JIA)に対する治療基準を発表した。この基準 は、治療基盤を英国の制度に即して包括的に扱うもので、世界中の保健医療制度が見習うべきモデルとなる。
多くの国で用いられる定義を鑑み、この治療基準は、同様の資格を持つ医療提供者が一定の地域社会で実践する許容可能な治療の基本レベルにある、とDaviesら は明記している1。多くの国民保健制度では、専門治療は細かく地域別に分けられることが多く、「一定の地域社会」が国全体または国の大部分からなるということも あり得る。BSPARの治療基準の中核をなす構造原理は、すべての小児・若年JIA患者は、居住地域を問わず最高の質の専門医療サービスを受けるべきであるということ である。同基準は、患者一人一人が、適切な技能と経験をもったJIA患児の管理可能な学際的な小児リウマチ医療チームにより管理されなければならない、と明記し ている。この医療チームは三次小児医療機関または公的な小児リウマチ臨床ネットワーク内のいずれかに設置される。中心メンバーには小児リウマチ専門医(または 正規の小児リウマチ臨床ネットワーク内で働いている、小児リウマチに関心をもつ指導的立場の成人リウマチ専門医または小児科医)、小児リウマチ専門看護師、眼 科医、小児理学療法士・作業療法士、児童心理士、小児足専門医、学校看護師、一般開業医を含めるべきである。また、これらの基準は、疾患の早期診断と学際 的な小児リウマチ医療チームへの紹介、患者・家族の治療への参加促進と家族中心のケア、疾患コントロールのための迅速な治療へのアクセス(現在受け入れられ ている治療ガイドラインに基づく)、青年期における小児から成人リウマチ治療への最終的な移行を確実に行うための複数の重要な原理を明確に定めている。
JIA患者の治療を担当する臨床医にとって本当の課題は、実際にどの治療が最良の臨床転帰をもたらすかを判断できるプロセスである。Daviesらは、エビデンス の有無に関わらず、小児リウマチ専門医は専門外の医師よりも最新のJIA管理の実践に必要なものを持ち合わせているという妥当な仮説をたてている。しかし、この仮 説は患者が最良の治療の質と臨床転帰を達成するまでの道程の第一歩にすぎない。
治療基準は、定義によると、治療ガイドラインではなく、どちらかといえば各患者が最良の診療ガイドラインに沿った治療を受ける機会を確保するものである。診療 と研究の進歩により、疾患の予防・診断・コントロールに対する新規アプローチが出現し、治療基準はこの新しい最善の診療を行うための土台を提供する。いかな る条件でも最適な健康転帰を達成するためには、最良の診断・治療・管理のための診療ガイドラインと連携して治療基準を実践しなければならない。治療基準と最 良の診療ガイドラインの両者の確実な実現は、明確な質の測定を通じて医療提供プロセスを追跡することにより達成される。治療基準を質の床面、最良の診療ガイ ドラインを天井とすると、その2つを支え、連結する柱は質の測定である。研究は、最良の健康転帰に達するための理論的根拠、エビデンス、理解を提供すること で質の全要素の土台を築く。
臨床研究やトランスレーショナルリサーチは、その研究が基本的な因果関係や生物学、治療の有効性、質の向上に取り組んでいるか否かを問わず、あらゆる疾患の 最適な健康転帰を達成するための根拠を提示する。残念ながら、特にJIAのようなまれな小児疾患では、実際の診療に関する情報を提供する研究に投資されること はほとんどない。JIAの新規薬剤を調べる無作為化対照試験はいくつかあるものの、厳格な選択・除外基準を設定した高度な状況の中で実施されているため、小 児リウマチ専門医でさえも“real life”に即した最適な治療アプローチは何か、の判断に窮する。一方で、過去30~40年にわたる治療戦略の入念な秩序立った研究を 通じて、米国の小児癌の罹患率および死亡率を激減に導いた米国の小児腫瘍グループ(Children’s Oncology Group:COG)のように、大規模な臨床研究ネットワー クの例がいくつかある。事実、COGの成功によって、いかにして研究は治療基準、質の測定、最良の診療ガイドラインのエビデンスの根拠を提供できるかに関する議 論はひとめぐりしてまた元に戻ってしまう。現時点で癌患児の90%以上がCOG研究に参加しているため、米国における癌患児に対する現行の治療基準はCOG施設の 受診である。
小児・若年JIA患者が最適な健康転帰を達成できる場合は、治療の質に向けた3つのアプローチ(治療基準、質の測定、最良の診療ガイドライン)に関する情報を提 供し、多大な研究努力によってその情報を強化しなければならない。世界中の小児リウマチ研究ネットワーク、例えば欧州小児リウマチ学会(Pediatric Rheumatology European Society:PRES)、小児リウマチ国際試験機関(Pediatric Rheumatology International Trials Organization:PRINTO)、米国の小児リウマチ共同研究グループ(Pediatric Rheumatology Collaborative Study Group:PRCSG) や米国・カナダの小児関節炎・リウマチ研究連合(Childhood Arthritis and Rheumatology Research Alliance:CARRA)は、JIAをはじめとした小児リウマチ疾患の予防とコントロール、および治癒に向けた最良の方法を明らかにするため、現在エビデンスの収集を行っている。
doi: 10.1038/nrrheum.2010.98