炎症性関節炎において脚光を浴びるマイクロRNA
Nature Reviews Rheumatology
2010年8月1日
Biomarkers MicroRNAs under the spotlight in inflammatory arthritis
マイクロRNA(miRNA)は、小型の内因性ノンコーディングRNAであり、遺伝子発現の制御に不可欠な役割を果たし、多数の悪性腫瘍における診断や予後予測に重要となっている。また、miRNAはリウマチ性疾患において臨床的に有用なバイオマーカーとも考えられる。これらに関するエビデンスは少なかったが、Arthritis Research & Therapy に掲載されたMurataらおよびLi らの論文は、このアプローチ法の適用に脚光を浴びせるとともに、関節リウマチ(RA)の病理に おける特定のmiRNAの役割について洞察している。
前立腺癌患者の血漿中に循環しているmiRNAが安定して存在することが発見されたため、Koichi Murataらはリウマチ性疾患患者の体液におけるmiRNAの存在の研究に乗り出 した。「われわれは、miRNAが関節液中に存在するかどうか、血漿中および滑液中のmiRNAは関節リウマチや変形性関節症のバイオマーカーとなり得るのかを検討しようと考えた」とMurataは説明する。
そして著者らは、miRNAがRAや変形性関節症(OA)患者の滑液と血漿に安定した形で存在することを示した。
これらの2種類の体液のmiRNAプロファイルを比較解析した結果、両疾患においてプロファイルが明確に区別できることが示され、血漿と滑液のmiRNAが別々の供給源に由来す るものであることが示唆された。さらに解析した結果、OAでは滑液miRNAが滑膜組織で産生されるmiRNAに大部分類似しているのに対し、RAでは、滑液miRNAは滑膜組織に より産生されたmiRNAを反映しているが、単核細胞などの浸潤細胞により産生されたmiRNAも含まれていることが示された。Murataは、「本論文で最も重要な結果は、血漿中 miRNAと滑液中miRNAの供給源が異なっていること、また滑液中miRNAが関節腔内の状態を反映しているということである」と述べている。
診断上の有用性という観点からは、本研究で関節炎症のマーカー候補としてmiR-132が同定された。miR-132は、RAまたはOA患者の血漿中で、発現量が健常被験者よりも大幅 に高い。さらに、滑液中miRNA(特にmiR-16、miR-146a、miR-155、miR-223)の量は、RA患者の方がOA患者より高く、疾患特異的な滑液中miRNAプロファイルが存在する可能性が示唆された。そして、RAの血漿中miRNA量は疾患活動性と相関した。「われわれは、疾患特異的な血漿中または滑液中miRNAがRAまたはOAの病理に関与すると考えている」とMurataは結論付けている。
Liらによる論文では、この仮説が正しいことが示唆されている。本研究では、RA患者の疾患病理において重要な役割を果たすCD4+ T細胞におけるmiRNAの発現および機能を解 析した。RA患者から得られた滑液CD4+ T細胞では、miR-146a量が健常被験者由来の末梢血CD4+ T細胞における量よ りも多かった。
このようなmiRNAの不規則な発現は、どのような結果をもたらすであろうか。miR-146a量は、炎症促進性サイトカインである腫瘍壊死因子量に直接相関した。さらに著者らは、in vitroでのJurkat細胞におけるmiR-146aの過剰発現によりアポトーシス量が低下するが、この現象はFas関連因子1をコードする遺伝子の発現がダウンレギュレーションされることにより引き起こされる可能性を示した。以上のデータから、miR-146aが疾患特異的miRNAであり、アポトーシス経路への影響によりRAの病理における炎症をきたす可能性が示唆される。
doi: 10.1038/nrrheum.2010.112