疼痛管理:慢性疼痛における線維筋痛症治療薬は「これが限界」である
Nature Reviews Rheumatology
2010年8月1日
Pain management Fibromyalgia drugs are 'as good as it gets' in chronic pain
無作為化対照試験のシステマティックレビューにより、線維筋痛症に対する3 つの薬物療法の効果と適応 症は若干異なることが明らかになっている。医師はこの結果から何を学べばよいだろうか。
The Journal of Pain 誌最新号でHauserら1は、線維筋痛症に対して米国で承認されている3種類の薬剤デュロキセチン、ミルナシプラン、プレガバリンに関する試 験のメタアナリシスを行った。計6,388例の患者を対象とした11件の無作為化対照試験が選択基準に適合したため、本レビューに含めた。対象とした転帰は疼痛、 疲労、睡眠障害、抑うつ気分、健康関連QOLの改善、ならびに有害事象であった。
上記転帰のいずれについても3種類の薬剤はプラセボよりも優れていると著者らは結論づけた。ただし、デュロキセチンは疲労、ミルナシプランは睡眠障害、プレガ バリンは抑うつ気分に関してプラセボよりも優れた結果を示さなかった。(臨床的に重要な最低限の差と考えられる)疼痛の30%改善を達成した患者の割合に薬剤間 で大きな差はみられなかったが、各薬剤により最も改善した症状には量的な差が認められた。デュロキセチンとプレガバリンはミルナシプランよりも疼痛および睡眠障 害の軽減に、デュロキセチンはミルナシプランとプレガバリンよりも抑うつ気分の軽減に、ミルナシプランとプレガバリンはデュロキセチンよりも疲労の軽減に優れて いた。したがって、個々の患者の症状に良好な効果を示す可能性が最も高い薬剤を最初に選択することへの根拠となる。
今回の解析により、薬物療法の一次選択は各薬剤の有害事象プロファイルによっても左右されることが示唆される。セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬 (SNRI)であるデュロキセチンとミルナシプランにより最も高頻度に発現するクラスエフェクトの有害事象には悪心、頭痛、多汗症、便秘などがあり、まれではあるが 最も重篤な有害事象は、コントロールできない高血圧、肝毒性、自殺傾向などである。α2δ-サブユニットカルシウムチャネルリガンド(プレガバリン、およびガバペン チンなどの類似化合物)により最も高頻度に発現するクラスエフェクトの有害事象にはめまい、傾眠、体重増加、末梢浮腫などがあり、メタアナリシスで認められた、ま れではあるが最も重篤な有害事象は心不全である。
これらの研究から得られた重要な知見は、初の承認薬であるこれら3剤が、疼痛のような特定の症状をただ「覆い隠す」というより、線維筋痛症の症状発現の根本 的な病因に作用する可能性が高いことである。上記薬剤のいずれかが奏効すれば、通常は多くの症状領域が改善する。これはおそらく、これらの薬剤の影響を受け た神経伝達物質(ノルエピネフリン、セロトニン、サブスタンスP、グルタミン酸)が疼痛の伝達だけでなく覚醒、記憶、睡眠のレベルに対しても広範囲に影響するためで あろう。そのため、SNRIは、青斑または中脳水道周囲灰白質領域といった脳領域のノルエピネフリンとセロトニンの濃度を上昇させること(それにより脊髄への下行 性鎮痛活性が亢進)による鎮痛効果を発揮する一方で、脳網様体賦活系内のノルエピネフリン濃度を上昇させることにより、覚醒レベルの上昇をもたらす可能性がある。
実際の診療では、各クラスそれぞれ1種類の薬剤の併用が一般的である。このアプローチは、線維筋痛症患者にSNRIとα2δ-サブユニットカルシウムチャネルリガ ンドを併用すると、いずれかのクラスの薬剤を単剤投与した場合よりも全奏効率がはるかに高くなることを示したデータにより支持され始めている。しかしこのエビ デンスは驚くに値しない。というのも、線維筋痛症のようないわゆる中枢性疼痛状態において、特定の神経伝達物質異常が多数存在していることは既知のことで あり、そうした異常が中枢神経系(CNS)での疼痛処理に関する「量的コントロール」を抑制するように共同で働く可能性があるからである。したがって、線維筋痛症に おけるびまん性のCNS痛覚過敏状態(実験的疼痛試験と神経機能イメージングで特定可能)は、過活動時には自己免疫または本態性高血圧のような最終共通経路に 至る他の生理的過程とは異なる最終共通経路だと思われる。こうした状態はいずれも、CNSの活動を亢進する神経伝達物質、サイトカインまたはホルモン濃度の上 昇、またはCNSの活動を抑制する神経ホルモン因子濃度の低下により引き起こされる。単剤療法は、多様な病因による基礎疾患を有する全ての患者に奏効するとは限 らないため、現在の治療アプローチではしばしば、作用機序の異なる薬物療法が併用される。
最後に、Hauserら1によるメタアナリシスから得られた最も重要だと思われる知見は、標準的な至適用量で測定される場合、線維筋痛症に対する上記薬剤の全体 的な鎮痛効果が、その他の慢性疼痛状態に対する他の鎮痛薬の場合と何ら変わりはないことである。多くの医師が、たとえデータはそうでないことを示唆していても、 上記薬剤は変形性関節症のような「真の」疼痛状態の治療には有効であるが、線維筋痛症に対しては有効でないと感じている。3種類の線維筋痛症治療薬の標準 的な鎮痛効果量は-0.19~-0.33で、小~中程度である。しかし、この効果量は変形性膝関節症の鎮痛薬に関するメタアナリシスで認められたアセトアミノフェン、 NSAID、オピオイドとほぼ同じである。1種類のクラスの薬剤で治療する慢性疼痛にとって、効果量は「これ が限界」である。
慢性疼痛状態では、どのクラスの鎮痛薬を使用しても全体的な鎮痛効果がそれほど高くないため、疼痛の「原因」にかかわらず、慢性疼痛患者にもっと多くの非薬 物療法を行うことに特に積極的になるべきである。教育、認知行動療法、運動などの非薬物療法は線維筋痛症ならびに検討したその他ほぼ全ての慢性疼痛状態におけ る効果量が大きいが、現段階でこれらの治療が実際の診療で用いられることはまれである。
doi: 10.1038/nrrheum.2010.120