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小児リウマチ:JIAの治療と悪性腫瘍のリスク

Nature Reviews Rheumatology

2010年12月7日

Pediatric rheumatology JIA, treatment and possible risk of malignancies

JIAの癌リスクに及ぼす生物学的治療の影響は、免疫抑制薬の併用などの交絡因子があることから議論がある。ある研究がこの関連性に新たな光を当てたが、疾患そのものと生物学的治療が癌リスクに及ぼす影響についてはいまだに疑問が残る。

腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬の使用により、若年性特発性関節炎(JIA)の治療に大きな進歩がもたらされた。2008年、FDAは、TNF阻害薬で治療しているJIA、ク ローン病または他の疾患を有する小児と若年成人における、TNF阻害薬の使用とリンパ腫および他の癌の発症の関連性について、早期通達(黒枠警告)を発行した。

2010年、Diakらは、FDA有害事象報告システム(AERS)の調査結果を報告した。この調査は、インフリキシマブ、エタネルセプトとアダリムマブ(ただし、ア ダリムマブは市販されているTNF阻害薬としては最も新しい薬剤で、関連情報には限りがある)などのTNF阻害薬の小児に対する使用と悪性腫瘍との関連性を確認 するために行われた。全ての悪性腫瘍の報告率は、インフリキシマブとエタネルセプトを使用している患者100,000例あたり、それぞれ66と22であった。それに 対し、一般的な米国の小児人口100,000人あたりのバックグラウンドとしての癌発症率は16.8であった。リンパ腫に限定して解析すると、インフリキシマブとエタネル セプトの投与を受けた患者での同等の報告率は、44と11で、一方米国の小児人口では2.4であった。全体として、この報告に記載された悪性腫瘍は48例で(31例がイン フリキシマブ、15例がエタネルセプト、2例がアダリムマブに関連していた。症例のうち32例が米国、16例は他の国の患者だった)、半数がリンパ腫(ホジキンリンパ 腫と非ホジキンリンパ腫を含む)、残りは白血病、黒色腫、および固形癌などであった。悪性腫瘍を有する患者のうち、25例は炎症性腸疾患(IBD、大部分がクロー ン病)、19例がJIA、および4例がその他の疾患を有していた。インフリキシマブの投与を受けた患者の大部分は、IBDに罹患し、免疫抑制薬(6-メルカプトプリン、 アザチオプリン、およびメトトレキサートの単独または併用投与)を併用していた。一方エタネルセプトの投与を受けた患者の大部分は、JIAを有し、メトトレキサー トの併用治療を受けている患者が多かった。

Diakら3が認識していた通り、いくつかのバイアスによりこの調査結果の解釈は混乱しており、制限がある。例えば、AERSのデータベースに自発的に通信し報告す る率は実際より少ないことが知られており、解析ではいくつかの異なった疾患(癌発症に関連する異なった性質を有する)が統合されているという事実がある。さら に、患者のほとんどは過去または同時に免疫抑制薬(抗TNF薬以外の薬剤)の治療を受けていたが、免疫抑制薬は癌リスク上昇の関連性が疑われている(関節リウマ チにおけるアザチオプリンなど)。さらに、JIAと診断されてから数ヵ月後に白血病が発症した症例に対して誤診であった可能性が否定できない。DiakらはTNF阻害 薬により悪性腫瘍のリスクが上昇する可能性はあるが、基礎疾患と免疫抑制薬の併用があったことから、明確な因果関係を立証することはできないと結論づけた。 この研究に関する論説では、Thomas J.A.Lehman6が、TNF阻害薬は悪性腫瘍リスクの上昇と関連している可能性があるが、JIAそのもの、またはメトトレキサート治療 との関連性以上に、JIA患児に対するTNF阻害薬使用と関連しているかどうかについて説得力のあるエビデンスはないと結論づけている。

また別の研究では、Simardらがスウェーデンの住民に基づいたJIA患児9,020例のコホート、および、そのコホートとマッチさせた5つの一般集団の対照群 (44,858 例)に対し、1969~2007年の癌発症リスクを評価した。JIAコホートの悪性腫瘍発生率は、追跡131,144人年あたり60であったのに対し(または1,000 人年あたり0.46)、対照群では追跡661,758人年あたり266で(1,000人年あたり0.4)、相対リスクは1.1であった(95%CI 0.9~1.5、追跡調査終了時の年齢中央値21歳)。しかし、1987年以降に診断されたJIA症例に限定して解析を行ったところ、全悪性腫瘍の相対リスクは2.3に上昇し(95%CI 1.2~4.4)、リンパ球増殖性悪性腫瘍の相対リスクは4.2 に上昇した(95%CI 1.7~10.7)。この研究で過去20年間にJIAを発症した患者において、悪性腫瘍(特にリンパ球増殖性型)のリスク上昇は、1999年に 終了した解析と同等の関連性を示していることから、生物学的治療の導入では説明できない。しかし、観察された悪性腫瘍の数が少なく、追跡期間も短かったため、 この関連性について、確固たる結論を出すことはできない。Simardらは、過去20年間に同定された、生物学的治療を受けたことがないJIA患者に悪性腫瘍のリスク 上昇が認められ、この関連性は、より新しい治療法を受けたJIA患者の癌リスクを解釈する際に大きな意味を持つと結論づけた。観察された癌リスクの上昇について 統計学的に説明されてはいないが、JIAの治療にメトトレキサートを使用したと最初に報告されたのが1986年であることを心に留めておくことが重要である。

これらの知見により、JIA、JIAの治療、癌の発生との間の関連性が示唆されるが、それでもいくつか問題が残っている。これらの問題に取り組むためには、非 常に大規模なサンプルサイズと適切な追跡調査期間を有する、厳格な市販後医薬品安全性監視システムが必要である(JIA患者5,000~10,000例に対する10 年以上の追跡調査など)。実のところ、小児リウマチヨーロッパ協会(Pediatric Rheumatology European Society:PRES)と国際小児リウマチ試験(Pediatric Rheumatology International Trials Organization:PRINTO)は、世界中のJIA罹患症例(現在治療中および過去の治療例)と新規発症例(新たに治療を受けてい る例)のデータ収集を目的とするプロジェクトを立ち上げている。メトトレキサートの単独投与を受けたJIA患者群、メトトレキサートと他の薬剤(生物学的薬剤を含 むがそれと限定しない)との併用治療を受けたJIA患者群、NSAIDもしくはステロイドの単独または併用治療を受けたJIA患者群、という3つの群が主要な患者群として 同定され、それぞれが他の群の対照群として用いられている。うまくいけば、この登録により、JIA患児の癌発症率が増加しているかどうかが確認でき、またその場合、 JIA、免疫抑制薬の併用、および生物学的薬剤の、癌発生における相対的な役割が確認できる可能性がある。

doi: 10.1038/nrrheum.2010.199

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