関節リウマチ:ACPA陽性RAとACPA陰性RAは同じ疾患か
Nature Reviews Rheumatology
2011年4月1日
Rheumatoid arthritis Are ACPA-positive and ACPA-negative RA the same disease?
抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)陽性関節リウマチ(RA)とACPA陰性RAの遺伝的背景が見たところ対照的であることから、これらは実際には異なる発症機序を有する二つの別個の疾患サブセットであり、それぞれに合わせた治療戦略が必要かもしれないとする考えが支持された。
RAの疾患転帰は患者によって非常に多様である。そして、ACPAの有無でこれらの転帰をある程度まで予測できることがわかっている。実際ACPAは、X線検査上の疾患 進行の最も優れた臨床的予測因子のひとつである。さらに、ACPA陰性の患者では、これらの自己抗体が陽性の患者と比較して、drug-free寛解に達する可能性が高い ことが示されている。最近、これらのACPAの状態により分類された二つの疾患サブセットについて遺伝的背景を研究した結果がPadyukovらにより発表された。
RAの病因については大部分が未知だが、環境因子と遺伝的因子の両方がこの疾患の発症に大きな役割を果たしていると考えられている。現在までに、RAの感受 性と関連がみられる遺伝子座は30以上も同定されており、RAを発症するリスクの50%が患者の遺伝的背景に起因すると推測されている。これらの遺伝的リスク因子 のうち最も顕著なのがHLA共有エピトープ領域であり、ACPA陽性RAの遺伝的素因となっているが、一方、この領域の別のハプロタイプであるHLA-DRB1*03 はACPA 陰性RAの素因となっている。RAと関連がみられる遺伝子座の大多数は、ACPA陽性の患者集団において同定されてきたが、そのACPA陰性サブセットへの遺伝的 関与についてはほとんどわかっていない。小規模研究により、IRF5 およびC型レクチン様受容体をコードする遺伝子のACPA陰性RAにおける役割が示唆されたほか、 メタ分析では、STAT4 の多型が両方のRAサブセットと関連しているのに対してCTLA4 の変異がACPA 陽性RAとのみ関連することが示された。つまり、ACPA陽性 RAとACPA陰性RAは異なる遺伝的関連パターンを有することが、これらの研究により明らかになったのである。
これらの関連パターンについてさらに検討するため、PadyukovらはACPA陽性とACPA陰性の患者集団において全ゲノム関連研究を行った。ACPA陰性RA患者774 例とACPA陽性RA患者1147例において、疾患との関連が170万個以上の一塩基多型(SNPs)について調べられた。ACPA陽性RAに関する発見は、その後2つの西欧 系白人のRAコホートにおいて再現された。ACPA陽性サブセットとACPA陰性サブセットの比較により、HLA領域にあるいくつかのSNPに関して二群間に全ゲノムで有 意な差(P <2.9×108)があることが証明された。HLA領域以外に位置する遺伝子座位については有意な関連は同定されなかったが、これはおそらく研究対象となった ACPA陰性RA集団の人数が比較的少なかったため検出力が不十分であったことによると考えられる。それでもこれらのデータにより、ACPAの状態で特徴づけられる 2つのRA疾患サブセットには、異なる遺伝的背景が一因となっているという考えが支持される。HLA領域以外の座位の遺伝的寄与について解明するためには、研究 対象となるAPCA陰性RA集団の人数を増やすことが必要である。
Padyukovらのデータ2はさらに、以前の研究結果と合わせることで、これらの2つのACPAサブセットには異なるリスク因子が存在することを示唆している。この違 いは、ACPA陽性RAとACPA陰性RAの根底には異なる病態生理が存在していることを意味しており、それゆえ、これらのサブセットは2つの異なる疾患として区別し、 RAの病態生理に関する遺伝的および機能的研究の両方において別々に研究されるべきだろう。以前の機能的研究において、ACPA陽性RAでは、免疫学的反応はシトル リン特異的に生じることが示され、そしてマウスモデルにおいてシトルリン特異的抗体が関節炎を誘発および促進し得ることが示されてきた。さらに、ACPA陽性 RA患者から得られた好塩基球は、ACPA陰性RA患者のものと異なり、シトルリン化された抗原への曝露により活性化される。これらの知見から、シトルリン化された 抗原への免疫細胞の反応が異なることが示されている。
異なる病因を有する疾患に対しては、理論的には、異なる治療戦略が有効となる可能性がある。RAにおいて治療の柱となるのはDMARDsであるが、このDMARDsとは、その作用機序の多くがよく解明されていない様々な種類の治療薬の総称となっている。メトトレキサートは最もよく知られたDMARDであり、RAおよび他の炎症性疾患の治療に広く使用されている。メトトレキサートにより治療されているACPA陽性の未分類関節炎患者は、RAへと進行する可能性が低く、またRAへと進行する時期がプラセボ対照群と比較して遅くなる。それとは対照的に、ACPA陰性患者の集団においては、RAへの進行に対してメトトレキサート治療が効果を示さず、この2つのACPAサブグループはメトトレキサート治 療に対する反応が異なることが示された。
この二つの疾患サブセットにおいて異なる転帰を導くのはメトトレキサート治療のみではない。腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬による治療に不応性のRAについては、B 細胞マーカーCD20に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブが有効な治療法であることが判明している。リツキシマブが結合することで体内を循環するB細 胞集団は少なくとも3ヵ月間にわたって除去される。最近、治療不応性RAの患者208例におけるリツキシマブの臨床研究において、ACPAが存在すると24週後におけ るEULAR(欧州リウマチ学会)反応基準がより良くなると予測されることが示され、この薬剤がACPA陰性患者よりもACPA陽性患者においてより大きな役割を果たす 可能性が示された。
要約すると、ACPA陰性RA発症への遺伝的関与についてはほとんどわかっていないが、全ゲノム関連研究によってACPAの状態で特徴づけられる2つのRA疾患サブセットには対照的な遺伝的背景があることが示唆された。この遺伝的な相違は、主にHLA領域に限局しているように思われ、そしてACPA陽性およびACPA陰性の疾患において異なるリスク因子が関与することを示すデータをさらに支持するものである。よって、この2つの疾患サブセットには異なる病態生理がその根底にあり、このことが治療戦略にも影響すると考えられる。
doi: 10.1038/nrrheum.2011.28