2018年11月号Volume 15 Number 11
感染したインフルエンザの亡霊
あなたの出生年はいつだろうか? さまざまな亜型が出現するインフルエンザのうち、どの亜型に感染しやすいかは、その人の出生年に流行していた亜型がカギを握っているようなのだ。免疫学的刷り込みと呼ばれるこの現象の解明に、米国立衛生研究所やビル&メリンダ・ゲイツ財団などが資金提供を始めた。インフルエンザの万能ワクチン開発に利用できる可能性があるからだ。
Editorial
Publishing Academy
学術界サバイバル術入門 — Training 5:学術英語 ②
あなたの考えの影響力を最大にするためには、読者にあなたの考えをしっかりと伝える必要があります。そのヒントを2回に分けて説明します。
Research Highlights
News
次なる「緑の革命」作物の育種
1960年代に「緑の革命」を起こした作物は、高収量だが窒素吸収能が低いために窒素肥料使用量が増加し、環境へ悪影響を及ぼしていた。今回、この「緑の革命」作物の育種によって、高収量を維持しつつ、窒素吸収能の改善に成功したことが報告された。
余震の予測もAIで
ニューラルネットワークを用いて本震後に余震が発生する場所を予測する手法は、従来の予測法よりも正確であることが示された。
巨大ブラックホールで重力赤方偏移を観測
銀河系の中心にある巨大ブラックホールで、一般相対性理論が予言する重力赤方偏移が観測された。
火星に水の地底湖を発見
探査機「マーズ・エクスプレス」のレーダー観測データによれば、火星の地下には液体の水が大量に存在するようだ。これが裏付けられれば、生命探査にも重要な一歩となる。
CRISPR作物はGM作物と同じくEU法の規制下に
欧州最高司法府が遺伝子編集作物について示した判断は、科学者や遺伝子編集作物推進者に衝撃を与えている。
遺伝子サイレンシング薬をFDAが承認
RNA干渉の発見から20年。米国政府はようやく、この現象を利用した最初の薬を認可した。
News Feature
感染したインフルエンザの亡霊
生まれて初めてのインフルエンザ感染が、以後のその人のインフルエンザに対する免疫応答を形作る。こうした免疫の「刷り込み(imprinting)」の重要性が最近、認識されるようになってきた。
Comment
Free access
石油流出事故の大半に人的ミス
タンカーの運行や事故に関する記録は、本質的な理解を妨げる内容であることが多く、これが研究や法律にゆがみを生じさせている。今後優先的に進めるべき研究を3つ提案する。
Japanese Author
光で活性化されるタンパク質の新型を発見
ロドプシンは、光を受容して反応するタンパク質である。ヒトの眼の網膜で働いたり、オプトジェネティクス(光遺伝学)技術に利用されたりすることで知られている。ロドプシンには、タイプ1(微生物型)とタイプ2(動物型)の2種類が存在するというのがこれまでの通説だったが、今回、それを覆す発見があった。第3のタイプのロドプシン、「ヘリオロドプシン」が、神取秀樹・名古屋工業大学大学院教授と井上圭一・東京大学准教授らにより報告されたのである。
News & Views
リンパ管による脳内の老廃物除去
髄膜にあるリンパ管は、血管と相互作用して脳から有害な老廃物を除去していることが明らかになった。この知見は、認知や加齢、アルツハイマー病などの疾患と関係がありそうだ。
反射を伴わない負の屈折
トポロジカルな音波の人工結晶「ワイル・フォノニック結晶」の2つのファセットの境界において、反射を伴わない音波の負の屈折が実現された。
体内のカロリー燃焼を促進する意外な分子
代謝産物の1つであるコハク酸は、褐色脂肪組織での熱産生過程を活性化し、カロリー燃焼を促進することがマウスで示された。この発見は、ヒトの肥満対策にも有効かもしれない。
News Scan
発生のバランス技
四肢が成長をそろえる仕組み
鳥たちの免疫
渡りのパターンによって特徴が異なる
Advertisement