2024年5月号Volume 21 Number 5
心を読むデバイスが脳の秘密を暴き出す
人間の神経活動を解読する脳–コンピューターインターフェース(BCI)は、麻痺患者が動いたり話したりする能力を回復させることができる。こうしたBCIを使った研究を進める中で、脳の解剖学的構造に関する仮定が次々と覆されており、BCIによって、脳機能に対する私たちの理解が変わりつつある。
Editorial
Research Highlights
リサーチハイライト
「人間のようにからかい遊びをする大型類人猿」「血液中だけでなく腸内の補体も免疫力を高めている」「代替量子コンピューターで輝く「量子モード」」「樹冠を含む化石から初期の樹木の構造が明らかに」、他。
News in Focus
恒星質量ブラックホールのジェットは宇宙線源か
恒星質量ブラックホールに伴うジェットの観測で、ジェット内部に電子加速機構があるとみられることが分かり、高エネルギー宇宙線の源でもある可能性が高まった。
AIが、赤ちゃん目線で世界を見て言語を学習
ニューラルネットワークが1人の子どもの乳幼児期の体験を記録した映像を使い、物体を認識することを学習した。
質量分析計で鏡像異性体を分離する
創薬において極めて重要となる右手分子と左手分子の区別と分離を、身近な分析装置で行えることが示された。
厳格な欧州AI法は研究とChatGPTをどう変えるか
欧州AI法は人工知能に関する世界初の重要な法律であり、汎用モデルを厳しく規制する。
肥満治療薬には、抗炎症効果も
減量薬として使われているブロックバスター薬であるGLP-1受容体作動薬に、脳などの器官の炎症を軽減する効果もあることが明らかになった。
慢性ストレスが腸にダメージを与える仕組みについての新たな手掛かり
マウスがストレスを受けると、腸に存在する細菌の1種が、腸を病原体から守る細胞を減少させることが明らかになった。
「伝播性」アルツハイマー病の手掛かりが初めて脳で確認される
アルツハイマー病に関係するタンパク質がヒトからヒトへ移る可能性があるという、論争の的となっている仮説を支持する知見が得られた。
中国政府が論文撤回に関する全国調査を初めて実施
中国の大学は全ての撤回論文について申告し、不正行為の調査に着手しなければならない。
Features
非営利団体は抗菌薬開発の救世主になり得るか
薬価の安い抗菌薬は、たとえよく効いたとしても製薬会社は開発費を回収できない。非営利団体の介入で、このジレンマを克服できるだろうか?
心を読むデバイスが脳の秘密を暴き出す
人間の神経活動を解読するインターフェースは、動いたり話したりする能力を回復させることができる。こうしたデバイスは、脳機能に対する私たちの理解も変えつつある。
米国の大学に影を落とす文化戦争
大学に対する政治的圧力が強まりつつある今、科学者や他の学者たちは、研究活動や教育活動が制約されることを危惧している。
News & Views
柔軟な半導体繊維がかなえる情報化時代の織物
繊維に半導体デバイスを埋め込む巧妙な技術によって、長さ数百メートルに及ぶ欠陥のない糸が作製された。こうした糸で織り上げられた織物から、将来のウエアラブル電子デバイスが見えてくる。
Free access
接触者追跡アプリで感染リスクを予測
スマートフォンの接触者追跡アプリが算出したCOVID-19感染リスクスコアから、後日SARS-CoV-2の検査で陽性となる確率を予測できる。こうしたアプリは将来のパンデミック対策で有用なツールとなるだろう。
喫煙が免疫系に及ぼす持続的な影響
喫煙は、特定の免疫応答に年齢や遺伝学的性質と同程度の影響を及ぼし得ることが、ヒト細胞における研究から分かった。さらに禁煙後も、免疫系に長く持続的な変化を引き起こす可能性が指摘された。
ヒトは「動くDNA断片」によって尾を失った?
ヒトと類人猿は、他の霊長類と異なり尾を持たない。新たな遺伝学研究で、尾の発生に重要な遺伝子への短いDNA配列の挿入が、ヒトの祖先における尾の喪失につながった可能性が示された。
Advances
「生きた化石」は進化の頂点?
進化が止まったのではなく、進化し続けた結果であるらしい。
細菌たちの記憶
大腸菌は過去の経験を記憶しそれに基づいて群れを形成している。
Where I Work
Heather Middleton
Heather Middletonは、英国ドーセット州在住の化石採集家。