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免疫学:SARS-CoV-2ワクチンが血液凝固を誘発する機構を調べる

Nature

2021年7月7日

Immunology: Exploring the mechanism of vaccine-induced blood clotting

Nature

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ワクチンによって誘導された抗体の一部が、ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)というまれな疾患で見られる血液凝固に対してどのように関与するかという論点についての知見を報告する論文が、Nature に掲載される。今回の研究で、SARS-CoV-2に対するアストラゼネカ社製SARS-CoV-2ワクチンを接種したVITT患者(5人)が保有する抗体が、血液凝固阻止剤ヘパリンと同じ部位で血液凝固に関与するタンパク質に結合することが判明した。

VITTは、SARS-CoV-2に対するアデノウイルスベクターワクチンの投与後にまれに発生する重篤な有害作用であり、血小板数の減少(血小板減少症)と動脈血栓症や静脈血栓症が起こる。VITTは、ヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)に類似しており、先行研究で、VITTとHITが、血液凝固に関与する血小板第4因子(PF4)という血小板に結合するタンパク質に対する抗体の産生に関連することが示されている。しかし、こうした抗体がVITTを引き起こす機構は、正確に解明されていない。

今回、Ishac Nazyたちの研究チームは、アストラゼネカ社製ワクチンの単回投与を受けたVITT患者5人(平均年齢44歳)の血清を分析した。その結果、これらの患者の血清から得られた抗体とヘパリンがPF4の同じ部位に結合することが判明した。次に、この血清検体とHIT患者10人の血清検体を比較したところ、PF4に対する結合応答性は、VITT抗体の方が強いことが分かった。Nazyらは、VITT抗体がPF4に結合して免疫複合体を形成し、この複合体が、血小板の表面上のFcγRIIa受容体を介して血小板を活性化し、その結果、血液凝固が開始して、血小板減少症と血栓症が発生する可能性があるという考えを示している。ただしNazyたちは、これがVITT患者における血栓性事象の発現につながる唯一の因子ではなく、他の血清因子も血小板活性化に関与している可能性があると指摘している。

doi: 10.1038/s41586-021-03744-4

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