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ロシアの工業施設のデータから明らかになった気候政策の欠陥

Nature Climate Change

2015年8月25日

Industrial plant data in Russia suggests climate policy loophole

Nature Climate Change

ロシアにおける京都議定書に基づいたプロジェクト開始後に、4カ所の工業施設で強力な温室効果ガスの生成量が増加し、生成した温室効果ガスの捕捉と燃焼によるクレジットの請求があったという報告が、今週掲載される。この結果は、国際的な排出量削減政策が、逆効果となる経済的インセンティブの出現によって損なわれている可能性を示していると著者たちは考えている。

世界で唯一の気候変動に関する条約である京都議定書によって設立された共同実施(JI)プロジェクトは、先進工業国が温室効果ガスの排出量削減目標を柔軟に達成できるようにしている。このプロジェクトで各工業施設は、温室効果ガスを大気中に排出せずに、捕捉・燃焼させることで、クレジットを請求できるようになっており、このクレジットは国際市場で取引されている。工業施設でクレジットを請求できるのは、すでに捕捉された温室効果ガスに対し追加的に捕捉された温室効果ガスについてのみであり、追加的かどうかは各国で判定される。

今回、Lambert SchneiderとAnja Kollmusは、ロシアの4カ所の工業施設における廃ガス発生に関するデータの解析を行い、これらの施設で、JIプロジェクトの創設後に強力な温室効果ガス(HFC-23とSF6)の生成量がかなり増えたと報告している。こうした増加と時を同じくして、4カ所のうち3施設では、排出量の計算規則が改定され、発生した温室効果ガスのうち、捕捉・燃焼されたものが全て追加的に捕捉された温室効果ガスとして計算されるようになった。(また、第4のロシアの工業施設でのJIプロジェクトは2011/2012年に構築・承認され、クレジットの請求が遡及的に行われた。)そのために、より多くのクレジットを得るためにより多くの温室効果ガスを生成することに経済的インセンティブが生じた。SchneiderとKollmusは、2011年にこうしたインセンティブを回避するための措置が廃止されたために、クレジットが66~79%も多く与えられたと結論付けている。今回の研究は、JIのようなプロジェクトを基盤とするメカニズムに過剰なクレジットを発生させる危険が潜んでいることを明らかにしており、著者たちは国内の規制当局と国際的な規制機関による監督の強化が必要な点を強調している。

doi: 10.1038/nclimate2772

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