【気候科学】風によって運ばれた南極の藻類
Nature Communications
2016年9月21日
Climate science: Antarctic algae gone with the wind
南極の高高度域の氷床内部で微細な海洋性藻類の化石が発見されたのは今から30年以上前のことだが、この海洋性藻類は、300万年前の氷床の顕著な融解と強い風が組み合わさった作用によって、この領域に運ばれてきたとする論文が掲載される。この新知見は、東南極氷床の複数の領域が比較的に穏やかな温暖化に対しても脆弱なことを指摘する学説を裏づけている。
こうした古代の海洋化石が高高度の南極横断山脈で初めて発見された当時、鮮新世(約300万年前)における東南極氷床の安定性に関する激しい論争が巻き起こった。一方の陣営は、その時代に氷床が急速に後退した(その結果としての海水準が上昇した)時期が1回以上あり、南極の中心の複数の海域で藻類が繁殖していたことが化石に示されていると主張している。もう一方の陣営は、広範な氷床の後退は起こっておらず、こうした南極の海域から藻類を移動させるために必要な山脈の隆起も起こっていないと主張し、比較的軽量の藻類は強い風によって沿岸地帯から運搬された可能性が非常に高いという考えを示している。こうした議論が30年間にわたって激しく続いてきた。
今回、Reed Schererたちは、高度な氷床モデルと地域気候モデルを併用して、両陣営の中間的な考えを示している。Schererたちの研究結果は、鮮新世に藻類が氷河によって南極の内陸から運搬されたことを裏付けるものではないが、東南極氷床の外縁付近で顕著な氷床の後退が起こり、藻類が多く繁殖する大きな湾が出現していたことを明らかにしている。Schererたちの研究データは、氷床の重量がなくなって土地の隆起がさらに進み、藻類に覆われた沿岸の平野と島嶼が風の影響を受けるようになったことを示している。また、Schererたちの地域気候モデルは、鮮新世において十分に強い風による運搬経路が存在し、露出した藻類が高高度の氷床内部に運搬されたことを示しており、南極横断山脈における藻類の存在と300万年後の発見に対する1つの説明になっている。
鮮新世の気候は、今後数十年間から数世紀について予測されている気候に類似していると考えられており、そのため、今回の研究で得られた知見は、今後の氷床の融解と海水準の上昇に重要な意味を持つ可能性がある。
doi: 10.1038/ncomms12957
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