【地球工学】火山噴火から着想を得た成層圏を覆い隠す試みは農業に悪影響を及ぼす
Nature
2018年8月9日
Geoengineering: Volcanoes unveil agricultural drawback of stratospheric veils
成層圏にエアロゾルを注入するという気候変動対策は、気温上昇による作物収量の減少を防ぐ効果があると考えられる一方で、それと同程度の悪影響を作物収量自体に及ぼす可能性があることを報告する論文が、今週掲載される。
「成層圏ベール」は、成層圏にエアロゾルを人工的に注入して、地球に到達する太陽光の量を減らし、気候変動の影響緩和に役立てる地球工学的な構想で、太陽放射管理技術の1つだ。成層圏ベールは、作物に対する熱ストレスを低減し、それによって作物の収量を増やすため、農業にとってメリットがあるとする考えが示されていた。
今回、Jonathan Proctorたちは、1982年に起こった2つの大規模な火山事象(メキシコのエルチチョン火山の噴火とフィリピンのピナトゥボ山の噴火)の影響を調べた。いずれの火山事象においても多量の硫酸塩エアロゾルの前駆体が成層圏に注入されており、これが最初に成層圏ベールを発想する上で役立った。Proctorたちは、エアロゾル濃度、日照データ、および作物収量の記録を調べて、太陽光が反射して宇宙空間に散乱する量が増えると、C3作物(低温で湿潤な気候で光合成の効率が高くなるイネ、ダイズ、コムギなど)とC4作物(高温で晴天に恵まれた気候で光合成の効率が高くなるトウモロコシなど)の収量に悪影響が及ぶことを明らかにした。
また、Proctorたちは、地球システムのモデルを作製し、全球的な成層圏ベールの下では、それによる寒冷化がもたらす作物収量に対する好影響が、太陽光量の減少による作物収量の減少によってほぼ相殺されてしまうことを明らかにした。そのため、成層圏のエアロゾルを用いる地球工学活動によって全球的な農業と食料確保に対する気候変動の脅威を緩和しようとする試みは、失敗に終わると考えられる、とProctorたちは結論付けている。
doi: 10.1038/s41586-018-0417-3
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