気候変動:陸氷の融解が海水準上昇に及ぼす影響の評価
Nature
2021年5月6日
Climate change: Assessing the impact of melting land ice on sea-level rise
地球温暖化を産業革命前比1.5°Cに抑えれば、21世紀の海水準上昇に対する陸氷融解の寄与度が、世界各国の最新の温室効果ガス排出削減目標(2100年)に基づいた予想寄与度の半分となる可能性のあることを示唆するTamsin Edwardsたちの論文が、Nature に掲載される。また、Robert DeContoたちの論文では、産業革命前比で3°Cの温暖化になると、南極の陸氷が融解し、その結果、2100年までの間、海水準が毎年0.5センチメートル上昇する可能性があることが示されている。これらの知見は、陸氷の融解が全球的な海水準上昇に及ぼす影響に関する新たな手掛かりとなる。
陸氷は、1993年以降、全球的な海水準上昇の約半分に寄与しており、その寄与度は、地球温暖化が進むにつれて上昇することが予想されている。南極氷床には、地球上で最大量の陸氷が蓄積されており、その氷量の減少が加速している。いくつかの複雑な氷床モデルを用いて陸氷の海水準上昇への寄与を予測することは可能だが、膨大な計算能力を必要とし、予測に不確定要素が含まれるために全ての可能な結果を探究することができない。
今回、Tamsin Edwardsたちは、統計的で計算効率の良い手法を用いて、複雑度の高いモデルの挙動を模倣し、さまざまなシナリオの下で氷河と氷床の海水準上昇への寄与を予測した。その結果、地球温暖化を産業革命前比1.5°Cに抑えるというパリ協定の野心的な目標が達成された場合、2100年までの陸氷の海水準上昇への寄与は、現在の気候予測に基づく予測海水準上昇の中央値25センチメートルから、13センチメートルへと半減すると予測されることが明らかになった。また、Edwardsたちは、グリーンランド氷床の融解は約70%減少し、海水準上昇に対する氷河融解の寄与も半減するという考えを示す一方で、南極氷床については、競合過程(積雪の蓄積と氷量減少)に不確定要素があるため、排出量シナリオによる差異が明確にならないことも明らかにした。ただし、氷床の挙動が最も極端な場合には、南極の氷量減少が5倍になる可能性があり、その結果、パリ協定での最新の温室効果ガス排出削減目標では、海水準上昇の中央値は最大42センチメートルに達すると考えられている。
一方、Robert DeContoたちのモデル化研究では、パリ協定のもう1つの目標である2°Cの温暖化に抑えられれば、南極の氷量減少速度がほぼ現在のレベルで推移することが明らかになった。これに対して、3°Cの温暖化というシナリオ(現在の化石燃料由来の温室効果ガス排出量と一致する温暖化傾向)の下では、氷量減少速度が2060年から大幅に上昇し、2100年までの間、海水準が毎年0.5センチメートル上昇するようになると予測された。また、大気中の二酸化炭素を除去するという楽観的だが理論的な方法のモデル化が行われ、急激な海水準上昇の閾値に達した後は、数世紀にわたって、海水準上昇が鈍化することが明らかになった。ただし、海水準上昇が止まることはないとされる。
これら2編の論文は、地球温暖化を抑制するための積極的な取り組みによって、今後の海水準上昇が大幅に減ることを強調している。南極に関して、Edwardsたちは、氷床における競合過程が複雑であるため、今後の南極氷床について具体的な予測を行うことが難しいことを明らかにしており、DeContoたちは、3°C以上の温暖化に対する南極氷床の感受性が非常に高いことを示している。このように、地球上で最大の氷体である南極氷床については、重大な不確定要素が残っている。
doi: 10.1038/s41586-021-03302-y
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