環境:メキシコ沖のカリブ海で致命的な病気のために絶滅の危機に瀕しているサンゴ種
Communications Biology
2022年6月10日
Environment: Coral species at risk of extinction in Mexican Caribbean due to deadly disease
メキシコ沖のカリブ海で、約450 kmにわたるサンゴ礁系の調査が行われ、イシサンゴ組織喪失病の発生によって、一部のサンゴ種の死滅率が最大94%に達していることが明らかになった。こうした知見は、この地域の一部のサンゴ種の絶滅を防ぐために人為的介入が必要なことを浮き彫りにしている。これらの結果を報告する論文が、今週、Communications Biology に掲載される。
イシサンゴ組織喪失病は、2014年に米国フロリダ沖で初めて発生が報告され、それ以降、カリブ海全域に広がっている。この病気に感染したサンゴは、数週間以内に死滅することが先行研究で明らかになっているが、この病気の地域的な影響やサンゴ礁の個体数減少の程度は、今回の研究まで分かっていなかった。
今回、Lorenzo Álvarez-Filipたちの研究チームは、2016年から2017年の間(イシサンゴ組織喪失病がメキシコ沖のカリブ海に拡大する前)に35か所の調査を実施し、2018年7月から2020年1月の間(イシサンゴ組織喪失病がメキシコ沖のカリブ海に出現した後)に101か所の調査を実施した。
Álvarez-Filipたちは、イシサンゴ組織喪失病がメキシコ沖のカリブ海で大発生した後に調査したサンゴ群体(2万9095)のうち、17%が既に死滅し、10%がこの病気にかかっていることを明らかにした。調査対象のサンゴ種(48種)のうち、この病気にかかった21種の死滅率は、10%未満から最大94%の範囲だった。脳サンゴと迷路サンゴのグループに属する造礁サンゴ種が、最も深刻な影響を受け、迷路サンゴ種とDendrogyra cylindrus(柱サンゴ)の個体数が、80%以上減少した。これらの数値は、この地域に生息するサンゴ種の一部に絶滅の恐れがあることを示しており、Álvarez-Filipたちは、造礁サンゴ種の個体数減少が、サンゴ礁の環境変化に対処する能力を弱めるかもしれないという考えを示している。
サンゴ群集の個体数減少の他にも炭酸カルシウム(サンゴの複雑な三次元構造を作り出すために必要な物質)の産生能力が30%低下していた。そのため、サンゴ礁の骨組みが作られるよりも早く破壊が進んでしまうかもしれないという考えをÁlvarez-Filipたちは示している。
Álvarez-Filipたちは、イシサンゴ組織喪失病が、カリブ海でこれまでに記録された中で最も致命的な撹乱になるかもしれないと結論付け、サンゴ礁の回復を促進し、一部のサンゴ種の地域全体での絶滅を防ぐためには、脆弱なサンゴ種の群体の救済、その遺伝物質の保存、回復活動の実施などの人為的介入が必要になる可能性が高いと付言している。
doi: 10.1038/s42003-022-03398-6
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