気候変動:熱帯低気圧の年間発生数が20世紀に入って減少した
Nature Climate Change
2022年6月28日
Climate change: Decline in tropical cyclones during the twentieth century
20世紀の熱帯低気圧の年間発生数は、19世紀後半と比べて約13%減少したことを報告する論文が、Nature Climate Change に掲載される。
熱帯低気圧が、温室効果ガスなどの物質の人為的排出によってどのように変化するのかは明らかになっていない。海洋温暖化によって熱帯低気圧の強度が増大することが予想されるが、大気循環の一部の変化によって熱帯低気圧の形成が抑制されると考えられているからだ。この点に関して、歴史的経緯を明らかにすることは難しい。特に1950年以前の観測記録が不十分なためだ。そのため、過去の熱帯低気圧の傾向については評価が分かれている。
今回、Savin Chandたちは、過去の記録とモデルデータを用いて、1850年以降の熱帯低気圧の年間発生数が、全球スケールと地域スケールの両方で減少傾向にあることを明らかにした。20世紀中の全球的な熱帯低気圧の発生数は、1850〜1900年と比較して、約13%減少した。熱帯低気圧が形成される海盆の大部分で、この減少は1950年以降加速しており、その主たる原因が熱帯の大気循環の弱化だったという見解をChandたちは示している。この減少傾向が唯一当てはまらないのが北大西洋海盆で、ここ数十年間は熱帯低気圧の発生数が増加している。その原因について、Chandたちは、20世紀後半になって、北大西洋海盆での人為的エアロゾル排出量が減少したために、熱帯低気圧の発生数が増加傾向に転じたという仮説を示しているが、それでも産業革命以前の時代と比べれば、熱帯低気圧の年間発生数は少ないと述べている。
今回の研究結果は、現在の気候変動によって熱帯低気圧の発生数が減少することを示唆する数々の研究知見を裏付けている。ただし、発生頻度は、熱帯低気圧に関連するリスクを制御する1つの側面にすぎず、熱帯低気圧の強度や位置も変化することが予想される点にも留意すべきだ。今回の研究では、これらの要因が評価されていないため、リスクの全体的な変化に関する結論を直接導き出すことはできない。
doi: 10.1038/s41558-022-01388-4
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