注目の論文

生態学:気候変動によって既知のヒト病原体の半数以上が強力になったかもしれない

Nature Climate Change

2022年8月9日

Ecology: Climate change can aggravate over half of known human pathogens

ヒトの感染症の58%が気候ハザードによって重症化したことを報告する論文が、Nature Climate Change に掲載される。この知見は、気候変動の継続が、ヒトの健康にとってのリスクをさらに生じさせることを明示している。

特定の種類の疾患に対するヒトの脆弱性に気候変動が影響を及ぼすことは広く認められている。これまでの研究は、主に特定の病原体群(例えば、細菌やウイルス)、特定のハザード(例えば、熱波や洪水の増加)に対する応答、伝播形態(例えば、食品媒介性や水媒介性)に着目しており、気候変動と病気という観点で、ヒトに対する脅威の全容を明らかにした研究はなかった。

今回、Camilo Moraたちは、文献を系統的に検討して、ヒトの病原性疾患(合計286種類)と温暖化、洪水、干ばつなどの気候ハザード(合計10種類)を関連付ける実証的事例(3213例)を明らかにした。277種類の疾患が、少なくとも1種類の気候ハザードによって重症化したことが明らかになり、気候ハザードのみを原因として軽症化した疾患は、わずか9種類だった。全体的な傾向としては、ヒトに影響を与えたことが論文で報告された感染症を列挙した信頼すべきリストの中で、58%の疾患が気候ハザードによって重症化したことが示された。ハザードの例としては、ヒトを病原体に近づけたハザード(例えば、ラッサ熱やレジオネラ症の症例に関連した移住の原因となった暴風雨や洪水)と病原体をヒトに近づけたハザード(例えば、ライム病、デング熱、マラリアなどの病気を媒介する生物が活動する領域を拡大した温暖化)がある。

Moraたちは、今回の研究で得られた知見は、気候ハザードが疾患を引き起こす特異な経路を明らかにし、社会の適応能力に限界があることを明確にしており、温室効果ガス排出量を削減する必要性を強調していると結論付けている。

doi: 10.1038/s41558-022-01426-1

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