注目の論文

気候変動:博物館標本が示す鳴禽類集団の気候変化への適応

Nature Climate Change

2023年6月20日

Climate change: Museum samples reveal climate adaptation in a songbird population

鳴禽類の一種であるサウスウエスタン・ウィロー・フライキャッチャー(メジロハエトリの亜種)の絶滅危惧集団が、米国サンディエゴの急速な気候の変化に適応し、その際に近隣の鳥類集団の遺伝子が混入したこと(遺伝子浸透)が役に立った可能性の高いことが示された。このことを報告する論文が、Nature Climate Changeに掲載される。この研究は、気候変動がこのまま続いていく中での種の持続性を理解する上で重要な意味を持つ可能性がある。

有利な形質が急速に進化することは、気候変動に直面している種の生存にとって重要なカギとなる可能性がある。しかし、野生種において、そのような適応的な遺伝的変化が生じている事例はわずかしか判明していない。鳥類や哺乳類のような長命な生物の場合が特にそうであり、これらの生物にどのような遺伝的変化の可能性があるかを解明することが難しくなっている。

今回、Sheela Turbekらは、1888~1909年に米国サンディエゴで収集されたサウスウエスタン・ウィロー・フライキャッチャー(Empidonax traillii extimus)の歴史博物館所蔵品(標本17点)と、現在の繁殖域に生息する221個体から採取された標本を利用して、サンディエゴに生息する集団の気候変動に対するゲノムの応答を調べた。その結果、サンディエゴの集団が、太平洋岸北西部の集団と南西部砂漠地帯の集団との遺伝的な差異が小さくなっていることが示され、これらの近隣集団との遺伝子浸透があった可能性が示唆された。遺伝子浸透の結果、サンディエゴ集団の遺伝的多様性が高まり、適応能力が高まったと考えられる。サンディエゴ集団では、気温と降水量に関連した遺伝的変化が、南カリフォルニアでの平均気温と最高気温の上昇と平均降水量の増加への適応と一致する方向に変化していた。

今回の研究は、野生集団における気候変動への適応機構の1つを示唆しており、Turbekらは、今回得られた知見は、絶滅の恐れのある種の管理・保全戦略にとって有益な情報になると主張している。

doi: 10.1038/s41558-023-01696-3

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