注目の論文

気候変動:南極の海氷減少を原因とするコウテイペンギンの繁殖失敗

Communications Earth & Environment

2023年8月25日

Climate change: Emperor penguin breeding fails due to Antarctic sea ice loss

Communications Earth & Environment

南極のベリングスハウゼン海に存在するコウテイペンギンの5つのコロニーのうち4つで、2022年春に巣立ちできたヒナが1匹もいなかったことを報告する論文が、Communications Earth & Environmentに掲載される。今回の知見は、この完全な繁殖失敗が、近年、同地域で記録された気候変動を原因とする前例のない海氷減少の直接の結果であることを示唆している。

コウテイペンギン(Aptenodytes forsteri)のコロニーは、繁殖と換羽(羽の生え変わり)を確実に行うため、毎年4月から翌年1月までの間、海岸に固着して安定した氷を生息地とする必要がある。ヒナは巣立つまでに防水機能のある羽毛が生えないため、南極の海氷域が変化すると、コウテイペンギンの繁殖が影響を受けることがある。

今回、Peter Fretwellらは、2018~2022年の人工衛星画像を使って、南極のベリングスハウゼン海に存在する5つのコロニー(ロスチャイルド島、ベルディ入江、スマイリー島、ブライアン海岸、プフログナーポイント)について、繁殖期のコウテイペンギンの動向を調べた。コロニーのサイズは、ロスチャイルド島の約630つがいからスマイリー島の約3500つがいの範囲内だった。

今回の研究で、ベルディ入江、スマイリー島、ブライアン海岸、プフログナーポイントの4つのコロニーが、完全に繁殖に失敗し、巣立ち期が始まる前の2022年12月に起こった海氷の崩壊後に放棄されたことが判明した。Fretwellらは、これらのコロニーにおいてヒナが巣立ちに成功した可能性は低いと述べている。これに対して、人工衛星画像から、ロスチャイルド島のコロニーでは、ヒナが巣立ちに成功したことが示唆された。Fretwellらは、2022年以前に完全な繁殖失敗が確認されたのは、5つのコロニーのうちブライアント海岸のコロニーだけだったと指摘している。

人工衛星画像を使ったコウテイペンギンの動向監視が始まってからの過去13年間にこうした地域レベルの繁殖失敗が観察されたのは初めてで、南極の温暖化がコウテイペンギン個体群の存続可能性に直接の影響を及ぼしたことを示す初めての証拠の1つとなった。

doi: 10.1038/s43247-023-00927-x

英語の原文

注目の論文

「注目の論文」一覧へ戻る

advertisement
プライバシーマーク制度