注目の論文

生態学:海洋の頂点捕食者に対する熱波の影響を評価する

Nature Communications

2023年9月6日

Ecology: Assessing the impacts of heatwaves on top marine predators

北東太平洋での最近の4回の熱波がサメ、クジラ、アザラシ、カメなどの頂点捕食者14種の分布に及ぼした影響がモデル化された。その結果を報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の知見は、さまざまな海洋熱波に対する捕食者の応答の違いを解明する手掛かりとなり、海洋捕食者の分布をほぼリアルタイムで予測できるツールの開発に役立つ可能性がある。

海洋熱波は短期的な極端な温暖化事象で、その生態系への影響と社会経済的影響は広範囲に及んでいる。これまでの研究では、気候変動への応答としての海洋生物種の長期的な再分布が検討されてきた。これに対して、海洋熱波のような一時的な事象に対する短期的な応答についてはあまり分かっておらず、我々が先回りして海洋熱波の社会生態学的影響を管理する能力は限られている。

今回、Heather Welchらは、機械学習と電子タグを装着した動物のデータを用いて、北東太平洋の頂点捕食者が海洋熱波事象に応答してどのように再分布するかを調べた。この研究では、北東太平洋における最近の4回の海洋熱波(2014年、2015年、2019年、2020年)が、サメ、哺乳類、海鳥、カメ、マグロなどの海洋捕食者14種の分布応答に及ぼす影響がモデル化された。捕食者の応答は種によって異なっていたが、予測可能性は高かったため、熱波の影響に関しては、天気予報のような早期警報システムが構築可能なことが示された。2015年の熱波では、一部の種(例えば、クロマグロやヨシキリザメ)の生息域がほぼ全て失われた一方で、2019年の熱波では、一部の種(例えば、カリフォルニアアシカやゾウアザラシ)の生息域が2倍に拡大した。また、一定数の種が、1つの国の管轄区域を超えて再分布しており、海洋熱波の際に自国の管轄区域内に流入した種数が最も多かったのは米国だった。これは、新たな管理上のリスクと責任だけでなく、ビジネスチャンスにもつながる可能性がある。例えば、2014年と2015年の熱波の際には、ビンナガ、クロマグロ、キハダマグロの生息域の11~31%がメキシコから米国へ移動した。

各国が態勢を整え、将来の漁業紛争をできるだけ抑えるためには、適応管理ツールが必要なため、Welchらは、今回のモデルを使用して動的な海洋管理ツールを開発し、それぞれの捕食者種の分布を日々予測できることを実証した。この早期警報システムは、人間と野生生物の新たな衝突や海洋資源の利用可能性の変化に先手を打って対応することを可能にすると考えられる。

doi: 10.1038/s41467-023-40849-y

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