注目の論文

生態学:深海採掘によって発生するプルームがクラゲの脅威になっている可能性

Nature Communications

2023年11月22日

Ecology: Deep sea mining plumes may threaten jellyfish

地球上で最も規模が大きく、最も探索が進んでいない生息環境である外洋深海とそこに生息する一部の生物(外洋性のクラゲなど)にとっては、深海採掘が脅威となる可能性があることを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、深海採掘活動のシミュレーションに対する深海生物クロカムリクラゲ(Periphylla periphylla)の応答に関する初めての生理学的データと分子データに基づいており、新たなストレス要因が深海生物の健康に及ぼす影響に関する理解を深め、採掘活動の規制に注意を要することを示唆している。

外洋性深海動物は、魚類資源の提供や、栄養再循環、大気中炭素の隔離に重要な役割を果たしている。しかし、深海生態系は、既に海洋温度の上昇によって脅かされている。また、鉱物資源のために海底採掘が行われるという見通しは、こうした生息地に住む動物にとって、もう1つの重大な課題となるが、その詳細は明らかになっていない。主たるリスクの1つが、採掘物を収集する車両によって海底の堆積物が再浮遊して、堆積物プルームが生成され、水柱全体に影響を及ぼすことだ。こうした堆積物プルームは100キロメートルにわたって拡散し、何年にもわたって持続し、動物に付着して体表をふさぐことがある。しかし現在のところ、堆積物プルームに対する外洋性深海動物(クラゲなど)の生物学的応答については、ほとんど知られていない。

今回、Vanessa Stenvers、Helena Haussらは、船上実験とノルウェーのフィヨルドに生息する深海性クロカムリクラゲ64匹から収集したデータを用いて、海洋温暖化と採掘活動による堆積物プルームがクラゲに及ぼす影響のシミュレーションを試みた。その結果、クロカムリクラゲは、4℃の水温上昇に応答して、代謝要求量の増加や自然免疫に関与する遺伝子の発現上昇などのストレスの徴候を示した。また、長期間の堆積物プルームに曝露されたクロカムリクラゲは、組織損傷を示す可能性のある遺伝子の発現上昇や粘液の過剰産生など、より激しいストレスの徴候を示した。粘液の産生はクラゲの一般的なストレス応答であり、水温が上昇したときや堆積物に曝露されたときには粘液によって堆積物を除去してクラゲのマイクロバイオームを保護するために役立つが、粘液の産生が持続すると、クラゲの代謝が変化して、エネルギーの枯渇が起こり、適応度が低下する可能性がある。

著者らは、こうしたクラゲの応答が他の深海生物を代表するものなのであれば、海底の採掘が深海とその多くの生態系サービスの健全な機能に大きな影響を与える可能性があると述べている。

doi: 10.1038/s41467-023-43023-6

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