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気候変動:急速に後退している南極西部の氷河

Nature Communications

2023年11月29日

Climate change: Western Antarctic glacier rapidly retreating

Nature Communications

2018~2019年に南極半島のカドマン氷河が海洋温暖化のため急速に後退し、長い間安定していた氷の移動速度が約94%上昇したことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の知見から、南極半島の西側に位置する氷河が急速に後退していることが示唆され、将来の気候変動の影響が南極半島に大きく表れることが浮き彫りになった。

南極での氷河の後退は、南極氷床を不安定化させ、海水準の上昇につながることが知られている。ラーセン棚氷の崩壊は、研究者の注目を南極半島東部の氷河に集めるきっかけになった。一方、南極半島西部の氷河(カドマン氷河など)は、これと異なる大気条件と海洋学的条件の下にあり、半世紀以上にわたって南極半島東部よりも安定していた。

今回、Benjamin Wallisらは、人工衛星の観測データと海洋学的測定結果を用いて、1991~2022年のカドマン氷河の安定性を調べた。その結果、カドマン氷河は50年以上安定していたが、その後加速し始めて、この氷河の棚氷が崩壊するに至ったことが判明した。また、氷の流出量は、1年当たり約0.5ギガトン増加していた。カドマン氷河の分離前線(カービングフロント)は、2018年11月から2019年12月にかけて8キロメートル後退し、同じ期間中に座礁氷の薄化が1年当たり20メートルのペースで進んだ。Wallisらは、カドマン氷河の後退が起こった原因として、水深400メートルに位置する水路の存在を挙げており、これによって海洋上層の異常に暖かい海水が氷河に送り込まれているという考えを示している。

今回の知見は、暖かい海水による熱的強制によって南極半島の氷河の動的不均衡状態が急激に生じて、氷の流出量が増加することを示しており、この地域が海洋温暖化に対して脆弱なことを浮き彫りにしている。

doi: 10.1038/s41467-023-42970-4

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