注目の論文

生態学:飢餓の危険にさらされているホッキョクグマ

Nature Communications

2024年2月14日

Ecology: Polar bears at risk of starvation

頂点捕食者であるホッキョクグマは、食餌や狩猟、採餌行動を適応させる能力を持っているにもかかわらず、北極海の氷がない時期には岸に上がって食物を探さなければならず、飢餓の危険にさらされている可能性があることを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の知見は、20頭のホッキョクグマのデータに基づいたもので、ホッキョクグマが気候変動による無氷期の長期化に対処するためにどのように苦労しているかを洞察するための新たな手掛かりとなる。

気候変動が進む中、北極では海氷が急速に減少している。ホッキョクグマは、春の終わりから初夏にかけて、出産し、仔が乳離れする時に主にアザラシを狩るための足場として海氷を用いる。そして、無氷期になると、ホッキョクグマは岸に上がり、活動を最小限に抑えてエネルギーを節約して、断食するか、低エネルギーの植物を消費すると考えられているが、一部の個体は陸生動物を餌にしているという報告がある。カナダのマニトバ州ハドソン湾西部では、1979~2015年に氷のない期間が3週間長くなり、過去10年間にホッキョクグマが陸地に上がっている期間が約130日に達している。

今回、Anthony Paganoらは、2019~2022年の北極海の無氷期(8~9月)に、ハドソン湾西部でGPS追跡機を使って20頭のホッキョクグマを追跡観察し、ホッキョクグマの1日のエネルギー消費量と、体重、食餌、行動、および移動量の変化をモニタリングした。その結果、ホッキョクグマがエネルギーの損失を減らすために、断食、移動量の低減、液果類や鳥類の摂食など、さまざまな戦略を選択していることが判明した。これらの戦略は、年齢、性別、繁殖期(妊娠中の雌も今回の研究の対象に含まれていた)、当初の体脂肪率とは無関係であった。Paganoらは、20頭のホッキョクグマのうち19頭の体重が減ったことから、陸上での採餌には、飢餓状態になるまでの時間を延ばす効果はほとんどないという見解を示している。

Paganoらは、海氷が後退し続ける中、こうした適応行動を理解することは、急速に変化する生態系におけるホッキョクグマの支援を目的とした保護活動にとって極めて重要だと述べている。

doi: 10.1038/s41467-023-44682-1

「注目の論文」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度