注目の論文

環境:細菌を用いて農地からの亜酸化窒素排出量を削減する

Nature

2024年5月30日

Environment: Using bacteria to reduce N2O emissions from farming

農地からの亜酸化窒素(N2O)の排出に関して、N2Oを消費する細菌の含有濃度を高めた肥料を使用することによって排出量を削減できる可能性があることを報告する論文が、Natureに掲載される。

農業における窒素の使用、特に合成肥料の形での使用は、作物生産にとって非常に重要だが、こうした合成肥料を過剰に施用すると、温室効果ガスの一種であるN2Oの排出量増加につながる場合がある。呼吸にN2Oを用いる細菌類は、大気中へのN2Oの排出量を削減できる可能性がある。しかし、これらの細菌を農地に保持し、その活性を最適化するための実用的な方法はまだ見つかっていない。

今回、Lars Bakkenらは、Cloacibacterium種の細菌CB-01(N2O呼吸細菌の菌株)を用いた方法を開発した。Bakkenらは、バイオガス生産由来の有機廃棄物の混合物(発酵残渣)で高濃度のCB-01を培養した。今回CB‐01が選ばれたのは、混合物中で急速に増殖することと、土壌中で生存することという2つの形質を持つためだった。次に、CB-01が含まれている混合物とCB-01を熱殺菌した後の混合物を3カ所の圃場に施肥し、両者を比較して、CB‐01がN2O排出量に及ぼす影響を測定した。

CB-01が含まれている混合物を施用すると、施肥により誘導されるN2Oの初期排出量のピーク値がほぼゼロになり、その後、研究期間(100日間)の残りの期間にわたって強力な効果が持続した。CB-01の存在量は、わずかに減少したが、比較的高いレベルを持続し、この方法によりCB-01の増殖期にわたってN2O排出量が抑制される可能性があることが示唆された。また、4つの異なるタイプの土壌で試験を行ったところ、CB-01を多く含む混合物がもたらしたN2O排出削減効果は、土壌のタイプによって50~95%となった。次に、より大きなスケールでの効果について、2030年のヨーロッパ全体のN2O排出量に対する影響をモデル化により予測し、今回のBakkenらの方法を使用する場合と既存のN2O除去技術を使用する場合を比較し。その結果、Bakkenらの方法によって、ヨーロッパ各国の農地からのN2O排出量を2.7%削減でき、この技術を全てのタイプの無機質肥料と天然肥料に拡大できれば、削減率が最大24%に達する可能性があるという予測が得られた。
今回の方法は、農地からのN2O排出を抑制するための費用対効果の高い効率的な方法となるかもしれない。Bakkenらは、使用する菌株の最適化を進めることで、その有効性と環境ストレス要因に耐える能力を最大限引き出せる可能性があると結論付けている。

doi: 10.1038/s41586-024-07299-y

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