Volume 37 Number 9

注目のハイライト

その他のハイライト

特集: 神経技術

神経技術はわずか数年で大きく進歩しており、数々の新たな手法を生み出して脳機能の解明を進展させたり新規治療介入に寄与したりすることが期待される。基礎神経科学の分野では、自由に行動するマウスの脳や末梢神経系にある特定のニューロン集団の活動を多彩な分子的手法で追跡、操作することができるようになりつつある。単一細胞「オミクス」は脳細胞の徹底的な特性評価を可能にしつつあり、健康時と疾患時の神経解剖学的特徴と機能をこれまで以上に詳細に理解することができるようになると考えられる。動物モデルの分野では、種々の興味深い電気的、化学的、光学的ツールが続々と登場し、神経科学者の基本ツールになるとともに、ヒトでの研究のデザインに役立っている(FrankらのReview参照)。

臨床的には、これまで外科的および小分子的な手法が神経・精神疾患の治療法をもたらしてきたが、治療手段としての的確さが改善されず、十分な有効性が得られないのに大きな副作用を伴うことが多かった。現在は、高い精度でニューロンの記録と刺激を行うことができる電極アレイが柔軟に軟らかく作製され、注射器で脳構造の深部に注入されてデコーダーおよびアクチュエーターと接続されるようになりつつある。これにより、四肢麻痺患者がロボットアームを制御して失われた機能を取り戻す可能性が新たに切り開かれようとしている。一方、脳深部刺激療法は、パーキンソン病など多くの運動障害に有効であるが、副作用がないわけではない。次世代型電極は空間的制御と時間的制御が得られ、正確に刺激を加えることを可能にするが、疾患の背後にある過程が十分に解明されていなければ、臨床医がそうした工学的成果を活用することはできない(CagnanらのReview参照)。

皮質からの電気シグナルを検知する電極を患者に一時的に埋め込む研究からは、脳機能に関する新しい知見が得られつつある。生体適合性のある生体組織類似の電子機器は深部構造に由来する脳機能を検知し、脳活動の長期読み出しとともに慢性疾患の治療法をもたらそうとしている(PatelとLieberのPerspective参照)。

精神・神経疾患の精密治療は膨大な数の患者に恩恵をもたらす可能性があるが、その開発と応用を支援するカギとなるのは、脳の接続性と機能に関する機構的解明の進展である(Editorial参照)。今後数年の間に利用の幅が広がりそうな方法の典型例である脳–コンピューターインターフェースでは、埋植型デバイスによって脳信号が記録され、それが複雑なアルゴリズムによって解読されて、人工装具によって動作に変換される(SmalleyのNews Feature参照)。脳–マシンインターフェースはこれまで数十例で試験使用が成功しており、この分野はさらに安全で優れたシステムをめざして前進している(Patent Table参照)。

脳機能を測定および調節する経頭蓋磁気刺激法などの非侵襲的手法は疾患の治療に有効であり、消費者直販の世界でも勢いを増している(WaltzのNews Feature参照)。

神経技術の開発が急展開する中で、疾患の治療(Q&A参照)や消費者直販の領域(WexlerのCorrespondenceとIencaらのCorrespondence参照)で神経技術を用いることをめぐる倫理的問題については、議論を続けて適切な行動をとることが重要であろう。

Editorial

神経調節の臨床化に向けて

Translating neuromodulation p.967

doi: 10.1038/s41587-019-0263-3

News Feature

脳–コンピューターインターフェース関連ビジネスの課題

The business of brain–computer interfaces p.978

doi: 10.1038/s41587-019-0231-y

非侵襲脳刺激法と脳ハッカー

The brain hackers p.983

doi: 10.1038/s41587-019-0238-4

Patents

Perspective

Review

神経機能を調べるための次世代インターフェース

Next-generation interfaces for studying neural function p.1013

doi: 10.1038/s41587-019-0198-8

改良型脳深部刺激療法のための新技術

Emerging technologies for improved deep brain stimulation p.1024

doi: 10.1038/s41587-019-0244-6

In This Issue

神経技術

Focus on neurotechnologies p.965

doi: 10.1038/s41587-019-0261-5

News

腫瘍浸潤リンパ球免疫療法の研究が加速

Pursuit of tumor-infiltrating lymphocyte immunotherapy speeds up p.969

doi: 10.1038/d41587-019-00023-6

CRISPRの知的財産権をめぐる争いが激化

Fight over CRISPR IP flares up p.970

doi: 10.1038/s41587-019-0256-2

著名人ポッドキャストシリーズ:Nina Tandon

First Rounders: Nina Tandon p.971

doi: 10.1038/s41587-019-0243-7

がんの液体生検への期待を捨てない投資家

Investors keep the faith in cancer liquid biopsies p.972

doi: 10.1038/d41587-019-00022-7

がん変異と抗がん剤のマッチング

Cancer mutations meet drug match p.974

doi: 10.1038/s41587-019-0258-0

ジェネンテック社、3社と共同研究を開始

Genentech picks three p.975

doi: 10.1038/s41587-019-0257-1

好調なI-SPY 2試験:適応的臨床試験が加速

Speed SPYing: adaptive clinical trials hit the gas p.975

doi: 10.1038/d41587-019-00021-8

世界の1カ月

Around the world in a month p.977

doi: 10.1038/s41587-019-0255-3

Patents

エビデンスに基づく自明性を特許の審査およびレビューで用いる

Evidence-based obviousness for use in patent prosecution and review p.997

doi: 10.1038/s41587-019-0232-x

News & Views

免疫療法:不完全な抗原を救うがん免疫療法

Rescuing imperfect antigens for immuno-oncology p.1002

doi: 10.1038/s41587-019-0248-2

遺伝子編集:DNAの正確な組み込みの機会に飛びつく

Jumping at the chance for precise DNA integration p.1004

doi: 10.1038/s41587-019-0210-3

Brief Communications

初代T細胞のCRISPR–Cas9編集後の修復の予測を大規模データセットが可能にする

Large dataset enables prediction of repair after CRISPR–Cas9 editing in primary T cells p.1034

doi: 10.1038/s41587-019-0203-2

ディープラーニングによる強力なDDR1キナーゼ阻害物質の迅速な発見

Deep learning enables rapid identification of potent DDR1 kinase inhibitors p.1038

doi: 10.1038/s41587-019-0224-x

Letter

RNAオフターゲット活性および自己編集活性が低いCRISPR DNA塩基エディター

CRISPR DNA base editors with reduced RNA off-target and self-editing activities p.1041

doi: 10.1038/s41587-019-0236-6

Articles

BiTEを分泌するCAR-T細胞は検出可能な毒性を生じずに抗原逃避を回避する

CAR-T cells secreting BiTEs circumvent antigen escape without detectable toxicity p.1049

doi: 10.1038/s41587-019-0192-1

改変RNAを用いた内因性ADARの動員によるプログラム可能なRNA編集

Programmable RNA editing by recruiting endogenous ADAR using engineered RNAs p.1059

doi: 10.1038/s41587-019-0178-z

標的適合性が広く活性が高い塩基エディターの連続進化

Continuous evolution of base editors with expanded target compatibility and improved activity p.1070

doi: 10.1038/s41587-019-0193-0

Immuno-SABERは組織中タンパク質の高度多重化増幅イメージングを可能にする

Immuno-SABER enables highly multiplexed and amplified protein imaging in tissues p.1080

doi: 10.1038/s41587-019-0207-y

「Journal home」へ戻る

プライバシーマーク制度