物理学:大規模な群衆の力学を理解する
Nature
2025年2月6日
Physics: Understanding the dynamics of a large crowd
ある一定の密度に達した集団の動きはある程度予測できるかもしれないことを報告する論文が、Nature に掲載される。スペインの伝統的な祭りを4年間にわたって観察した結果に基づくこの研究結果は、閉鎖された環境における危険な群衆の行動を予測するのに役立つ洞察を提供している。
コンサートやフェスティバルのような密集した群衆は、数百人単位で集団移動が起こり、押しつぶされ、窒息および死にいたる可能性もあるため、大きな危険要因となり得る。大勢の群衆が互いにどのように移動するかを理解することは、悲劇を防ぐのに役立つが、特にそのような規模での再現性のある安全な実験が不可能であるため、数千人の集団における力学を説明したりモデル化したりすることは困難であった。
Denis Bartoloらは、スペインのパンプローナ( Pamplona)で開催されたサン・フェルミン祭(San Fermín festival)の4つの場面で、長さ50メートル、幅20メートルの広場に設置された2つの観測地点から、推定5,000人の群衆を追跡した。著者らの映像と数学モデル(人々が密集し、群衆が連続体として扱える場合、流体のようになる)により、著者らは、祭りが始まる前の1時間には1平方メートルあたり2人だった群衆の密度が、祭りの最中には1平方メートルあたり6人にまで増加したことを発見した。また、群衆の密度は最大で1平方メートルあたり9人に達することが分かった。この上限密度に達すると、著者らは数百人の群衆が外部からの刺激(押すなど)なしに、予測可能な18秒間隔で振動するひとつの流体のように自然に行動する様子を観察した。
この発見の一般的な性質を立証するために、著者らはスペインのサン・フェルミン祭の映像と、パニックに陥った群衆のなかで200人以上が負傷し、21人が死亡した2010年のドイツのデュイスブルク・ラブパレード(Duisburg Love Parade)の映像を比較した。Bartoloらは、デュイスブルクの群衆がサン・フェルミン祭と同程度の密度に達した際にも、同じ振動が観察されたことを発見した。
著者らは、この発見が限られた空間における大規模な群衆の行動を予測する方法についての洞察をもたらすかもしれないと指摘している。
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- Published: 05 February 2025
Gu, F., Guiselin, B., Bain, N. et al. Emergence of collective oscillations in massive human crowds. Nature 638, 112–119 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08514-6
doi: 10.1038/s41586-024-08514-6
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