【生物学】糖尿病とがんを結び付ける分子機構とは
Nature
2018年7月19日
高血糖状態は、がんにおいて撹乱されるDNA修飾の1種であるDNAの5-ヒドロキシメチル化(5hmC)レベルに悪影響を与えることを報告する論文が、今週掲載される。この知見は、糖尿病の観察例でがんのリスクが高い理由を説明する上で役立つ可能性がある。
糖尿病は、複雑なメタボリックシンドロームの1種で、長期にわたる高血糖状態を特徴とし、重症で致命的な合併症を伴うことが多い。過去の疫学研究では、糖尿病が高い発がんリスクとも関連していることが示唆されていた。高血糖は、糖尿病とがんの関連に寄与する一般的な要因である可能性があるが、この関連の分子基盤について、また、高血糖状態が遺伝的変化やエピジェネティックな変化を引き起こして究極的にがんを引き起こす仕組みについてはほとんど分かっていない。
一部のがんで観察されている5hmCの低下は、5mCから5hmCへの変換を触媒する腫瘍抑制因子TET2の活性低下を原因としている。今回の研究で、Yujiang Geno Shiたちは、糖尿病患者における血液細胞の5hmCレベルが低下することを見いだした。また、種々の細胞株を用いた実験から、TET2の安定性と5hmCレベルを調節する、いわゆる「リン酸スイッチ」を同定した。栄養素とエネルギーの重要なセンサーとして働く酵素AMP活性化キナーゼ(AMPK)は、TET2をリン酸化して安定化させる。高血糖状態はAMPKの活性を損なうことが知られており、このためTET2が不安定化して、5hmCレベルの低下につながったと考えられる。
Shiたちは、糖尿病治療薬メトホルミンがAMPK-TET2経路を介して腫瘍の増殖を阻害することを示唆するマウスのデータも示しており、今後の臨床研究に新たな手掛かりをもたらしている。
doi:10.1038/s41586-018-0350-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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