動物行動学:野生の雌ボノボは自分と異なる社会集団の幼仔を養育する
Scientific Reports
2021年3月19日
野生ボノボの群れの観察結果から、2頭のボノボの幼仔が別の社会集団の成体の雌ボノボの養子になった可能性があることを報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。この知見は、野生ボノボにおいて、異なる群れの間で養子取りが行われたことを示す最初の報告であり、野生類人猿において群れの間で養子取りが行われた最初の事例である可能性もある。
ボノボは複数の雄と雌からなる社会集団を形成し、一時的に社会集団間で交流することがある。今回、京都大学霊長類研究所の徳山奈帆子(とくやま・なほこ)たちの研究チームは、2019年4月から2020年3月の間、コンゴ民主共和国のワンバにあるルオー学術保護区で野生ボノボの4つの群れを観察し、異なる社会集団の雌ボノボの養子になったと思われる2頭の幼仔を確認した。
フローラ(雌、2.6歳)は、2頭の雌の仔を持つマリー(雌、18歳)によって養育されていた。ルビー(雌、3歳)は、自身の仔が別の社会集団に移って生活しているチオ(雌、52~57歳)によって養育されていた。フローラの生物学上の母親であるフラは、マリーがフローラの養育を始める前にマリーの社会集団を訪れたが、その集団のメンバーとの交流は観察されず、フラが今も生きているかは不明である。徳山たちは、ルビーの生物学上の母親を特定できなかった。
マリーは18か月以上にわたって、チオは12か月以上にわたって、母親として養育(仔を運ぶ行動、毛繕い、授乳、営巣など)を行っていたことから、徳山たちは養子取りが行われたと考えている。マリーの社会集団のメンバーがフローラの社会集団のメンバーに向けて、チオの社会集団のメンバーからルビーの社会集団のメンバーに向けて、攻撃的行動は観察されなかった。糞便から抽出したミトコンドリアDNA試料を分析した結果、養子と養母に母系の近縁性がないことも明らかになった。
今回の知見は、ボノボにおける養子取りが、養母と実母の間に血縁関係がある場合や、事前に社会的関係が存在する場合に限られない可能性を示している。徳山たちは、今回観察された養子取りと考えられる現象が、ボノボの利他行動、幼仔への強い愛着、自分と異なる社会集団のメンバーに対する寛容性の高さによって推進された可能性があるという見解を示している。
doi:10.1038/s41598-021-83667-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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