人間行動学:大規模な屋内イベントでのSARS-CoV-2感染の抑制
Nature Communications
2021年8月19日
大規模な屋内イベントでの重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染は、効果的な換気と適切な衛生対策によって抑制できる可能性があることを示唆する論文が、Nature Communications に掲載される。今回の研究は、2020年8月にドイツで開催された実験的なイベントに基づいている。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が始まったときに、多くの国々の政府が最初にとった措置の1つが、大規模イベントの禁止だったが、このことで大きな経済的影響が生じた。
今回、Stefan Moritzたちの研究チームは、2020年8月に実験として開催されたポップスの着席コンサートにおけるエアロゾルや飛沫を介したSARS-CoV-2の感染の可能性を調査した。このコンサートの参加者(1212人)は、モニターを装着し、3つの衛生対策のシナリオの下で接触者の記録をとった。第1のシナリオでは、衛生対策を一切とらなかった。第2のシナリオは、中程度の衛生対策がとられ、参加者の座席の前後左右を空席にし、入場ゲートの数を第1のシナリオの2倍にした。第3のシナリオは、最も厳しい衛生対策がとられ、出席者の座席の間隔を1.5 mとし、入場ゲートの数を第1のシナリオの4倍に設定した。その結果、参加者1人当たりの接触者数の平均は9人で、接触者数が最も多かったのは入退場時と休憩時であったことが明らかになった。衛生対策が一切とられなかった場合には、イベント時間中に5分以上の接触があったが、中程度の衛生対策と最も厳しい衛生対策の場合には、ほとんどの接触が入場時に起こっていた。
次に、Moritzたちは、屋内空間のモデルを開発し、感染性エアロゾルの分布と、それに伴う健常者のSARS-CoV-2への曝露のシミュレーションを行った。この屋内空間モデルでは、コンサート参加者が4000人で、そのうちSARS-CoV-2感染者を24人と想定した。Moritzたちは、空気交換率と空気流量が異なる2つの換気シナリオでモデルを作成した。空気交換率の高い換気シナリオでは、感染者1人当たりの曝露者が平均3.5人で、空気交換率の低い換気シナリオでは、感染者1人当たりの曝露者が平均25.5人だった。衛生対策を実施すると、いずれの換気シナリオでも曝露者の数は減った。中程度の衛生対策がとられた場合、感染者1人当たりの曝露者は、空気交換率の高い換気シナリオで平均1.9人、空気交換率の低い換気シナリオで平均11.6人となり、最も厳しい衛生対策がとられた場合には、空気交換率の高い換気シナリオで0.7人、空気交換率の低い換気シナリオで5.3人となった。Moritzたちは、この情報を用いて、大規模な屋内イベントがSARS-CoV-2の地域的な感染拡大に与える影響のシミュレーションを行い、適切な衛生習慣と効果的な換気が実践されれば、大規模な屋内イベントがより広域のコミュニティーにおけるSARS-CoV-2の感染拡大に及ぼす影響はほとんどないという考えを示している。
Moritzたちは、今回の研究結果が着席コンサートに基づいたものであり、立席コンサートやサッカーの試合などの他の大規模イベントに適用できるかどうかという点では、限定的なものにとどまると指摘している。
doi:10.1038/s41467-021-25317-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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