ウイルス学:SARS-CoV-2デルタ変異株の特性解析
Nature
2021年9月6日
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のB.1.617.2(デルタ)変異株は、最近になって急速に他の既存の変異株系統より優勢になったが、その理由として、デルタ変異株の感染力が高いことと中和抗体に対する感受性が低いことを挙げる論文が、Nature に掲載される。今回の研究は、ワクチン接種が行きわたった後も感染抑制対策の継続が必要なことを示唆している。
SARS-CoV-2のデルタ変異株は、2020年後半にインドのマハーラーシュトラ州で初めて見つかり、それ以降、インド全土と世界90か国以上に感染が拡大し、その後急速に、B.1.1.7(アルファ)株、B.1.617.1(カッパ)株などの既存の遺伝的バリアントよりも優勢になっていった。
今回、Ravindra Guptaたちの研究チームは、SARS-CoV-2の遺伝的バリアントのそれぞれの特性の差異を調べた。室内実験において、デルタ株は、D614G変異を持つWuhan-1変異株と比較して、以前の感染から回復した者が保有する抗体に対する感受性が6分の1で、ファイザー社/バイオンテック社製ワクチンまたはアストラゼネカ社製ワクチンのいずれかを2回接種した時に産生された抗体に対する感受性は8分の1だった(現行のワクチンは、Wuhan-1株に対するワクチンとして開発された)。また、ヒト気道の実験モデルでは、デルタ株は、アルファ株よりも複製効率が高かった。この優位性は、切断状態のスパイクタンパク質が他の変異株よりも多いという構造に関連している。デルタ株は、このスパイクタンパク質の構造によってカッパ株よりも高率で複製し、細胞内に侵入できる。Guptaたちは、デルタ株が優勢になった理由はこのことで説明できると結論付けている。
Guptaたちの研究チームは、2021年3〜4月までの6週間にわたって、デリー(インド)の3か所の病院に所属していてアストラゼネカ社製ワクチンの接種を2度受けた医療従事者(合計130人以上)のSARS-CoV-2感染を分析した。これらの医療従事者において、アストラゼネカ社製ワクチンのデルタ株に対する有効性は、デルタ株以外の変異株に対する有効性を下回った。
Guptaたちは、今回の研究によって得られた知見は、SARS-CoV-2の変異株に対するワクチンの有効率を高める戦略を開発する必要性を明確に示しているという結論を示している。
doi:10.1038/s41586-021-03944-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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