公衆衛生:強化学習を利用したCOVID-19水際対策の改善
Nature
2021年9月22日
2020年夏にギリシャに到着した旅行者を対象とした、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)検査の効率を高め、的を絞った検査にする上で役立った強化学習システムEvaについて記述された論文が、Nature に掲載される。この論文では、Evaを利用することで突き止められた無症候性感染者の人数が、無作為検査の場合や集団レベルの疫学的指標に基づく入国制限の場合に予想される人数の2倍近くに達したことが報告されている。また、Evaは、早い段階でハイリスク地域を絞り込んで警告を発し、SARS-CoV-2の感染拡大を抑えるための政府の水際対策政策の指針にもなった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の第1波が到来して以降、多くの国が不要不急の渡航を制限して、SARS-CoV-2の感染拡大を抑えており、感染検査で陰性と判定された旅行者のみの入国を認める方法、検疫期間を強制的に定める方法、特定国からの渡航者の入国を禁止する方法など、さまざまな臨機応変の水際対策が採用されてきた。多くの国の水際対策は、集団レベルの疫学的指標(罹患率や死亡率など)に基づいている。しかし、そのような指標は、過少報告、報告バイアス、報告遅延のために不完全なものになっている可能性がある。
2020年夏にギリシャがSARS-CoV-2に感染した旅行者の流入を抑えるために用いた方法は、上述した方法とは異なり、感染検査を受けるべき旅行者を予測する強化学習アルゴリズムを実装した。この論文の著者であるKimon Drakopoulosたちによれば、このシステムは、Evaと呼ばれ、旅行者から収集した人口統計学的データ(国、地域、年齢、性別)と探索的検査の結果と以前に実施された旅行者の検査結果を用いて、特定の人口統計学的特性(又は旅行者のタイプ)におけるCOVID-19の有病率を推定した。Evaは、これらの推定値を用いて、旅行者のタイプに基づいてPCR検査を受けるべき旅行者の一群を突き止めた。つまり、SARS-CoV-2の有病率が高いことが判明した人口統計学的特性があれば、このプロファイルに適合する旅行者が検査を受けることにした。また、Evaは、「死角」が生じないようにするため、データ量の少ないタイプの旅行者にもいくつかの検査を割り当てた。これは、アルゴリズムが学習を継続する方法を改善するための重要なフィードバックステップだ。
この強化学習に基づいた方法によって突き止められた無症候性感染者の数は、無作為検査によって検出されることが予想される人数の1.85倍に達した。完全に無作為なサーベイランスでは、Evaによって検出された症例数の約54%しか突き止められないと考えられている。Evaは、疫学的指標に基づいた検査方針によって突き止められたと予想される無症候性感染者の1.25~1.45倍多くの無症候性感染者を突き止められることができた。Evaが推定したCOVID-19有病率は、早期にハイリスク地域の警告を発する際にも用いられた。ギリシャ政府は、この早期警報を利用して、これらの国々のグレーリストを作成して、旅行者が入国前にPCR検査で陰性判定を受けたことを義務付ける安全基準と感染防止策の修正を行った。Drakopoulosたちは、Evaを利用した方法は、ピークシーズンにグレーリストを早期に決定したことによって、COVID-19に感染した旅行者の入国阻止例が6.7%増えたと推定しており、今回の研究結果は、集団レベルの疫学的指標に基づいた旅行者の入国禁止を国家レベルで実施することが、安全な旅行を開始するための最も効率的な方法とならない可能性があることを示唆していると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-021-04014-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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