Research Press Release

COVID-19:ボルケーノ国立公園の野生のマウンテンゴリラにCOVID-19の脅威が及ぶ恐れ

Scientific Reports

2021年10月21日

モデリ化研究により、ボルケーノ国立公園(ルワンダ)の野生のマウンテンゴリラに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のアウトブレイク(集団発生)があれば、ゴリラ集団の崩壊につながる可能性があることが明らかになった。この研究結果を報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。

飼育下のニシローランドゴリラにおいて、以前SARS-CoV-2の感染が確認されたが、野生の類人猿(絶滅危惧種のマウンテンゴリラを含む)に対するCOVID-19の潜在的リスクは明らかでない。

今回、Fernando Colcheroたちの研究チームは、ボルケーノ国立公園に生息するマウンテンゴリラの集団において、COVID-19の発生が集団の崩壊につながる確率のシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、ダイアン・フォッシー・ゴリラ基金によって1967~2018年に収集された396頭のゴリラに関するデータが用いられ、このゴリラ集団の規模と構造の年々変動が考慮された。また、このシミュレーションには、ヒトにおけるCOVID-19の疾患動態に影響を及ぼす疫学的因子(1人のCOVID-19感染者から感染した者の数(R0)、感染後に死亡する確率、免疫を獲得する確率、免疫の持続期間)も考慮されている。

Colcheroたちは、公園内のゴリラの集団のサイズと構造の変動速度を変えながらシミュレーションを2000回実施し、ヒトにおけるCOVID-19のアウトブレイクについて過去に報告された疫学的条件と類似の条件下で、シミュレーションにおけるゴリラ集団の71%が50年以内に崩壊することを明らかにした。ただし、ゴリラに適用できる治療法がヒトの場合より少ないため、ゴリラの死亡率がヒトより高くなるという考えが示されている。この点をモデルに取り入れると、シミュレーションにおける集団(2000集団)のうち、50年以内に崩壊する集団は、全体の80%に増加した。ヒトにおけるSARS-CoV-2の平均R0が約2.5であることが先行研究で明らかになっているが、Colcheroたちは、ゴリラにおけるR0が少なくとも1.05になると、ゴリラ集団が崩壊する確率が高まることを明らかにした。このことは、集団内でSARS-CoV-2の伝播を抑制することの重要性を示している。Colcheroたちは、ゴリラの群れが相互にソーシャルディスタンシングを行う自然な傾向があるため、SARS-CoV-2の伝播リスクは低くなる可能性が高いと指摘している。ただし、最近になってゴリラの集団が大型化しており、群れ同士が遭遇する確率が高くなり、COVID-19に罹患する機会が増加する可能性がある。

今回の研究によって得られた知見は、COVID-19のパンデミック(世界的大流行)がボルケーノ国立公園の野生のマウンテンゴリラの集団に現在及ぼしているリスクを浮き彫りにしている。Colcheroたちは、この公園内で、感染の恐れのあるゴリラの定期的な検査に加えて、SARS-CoV-2の伝播を抑制する対策(マスク着用や公園職員・観光客のワクチン接種など)を引き続き実施することを提案している。

doi:10.1038/s41598-021-00061-8

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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