免疫学:検出可能なSARS-CoV-2感染への抵抗性が新たなワクチンの標的になるかもしれない
Nature
2021年11月10日
過去に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)以外のコロナウイルスに曝露した人は、免疫系が、コロナウイルス全体にわたって高度に保存されているウイルス複製タンパク質を記憶しているため、SARS-CoV-2の排除が迅速になっていると考えられることを示した論文が、Nature に掲載される。今回の研究は、SARS-CoV-2に曝露するリスクが高い医療従事者を対象とし、SARS-CoV-2感染検査または抗体検査の結果が陰性であっても、ウイルスに保存された複合体に対する記憶T細胞の応答が亢進している徴候が認められ、これらの医療従事者がSARS-CoV-2を迅速に除去できたことが示唆された。このようにウイルスに高度に保存されたタンパク質が、エンデミックを引き起こすコロナウイルスや新たに出現するコロナウイルスに対する将来のワクチンの標的となることが、今回の研究で得られた知見によって明確に示された。
感染力の強いSARS-CoV-2に曝露するリスクの高い人であっても、その一部は、標準的な診断検査で陰性という結果になっている。以前の研究では、コロナウイルスに曝露すると、SARS-CoV-2感染の減弱に有効と考えられる記憶T細胞が産生されることが示されている。今回、Mala Maini、Leo Swadlingたちの研究グループは、SARS-CoV-2に保存された構造の1つで、ウイルス複製に関与している複製転写複合体(RTC)に関して、RTCを構成するタンパク質を認識する既存の記憶T細胞がSARS-CoV-2の迅速な制御を促進するという仮説を提示し、交差反応性を示すT細胞の増殖を模倣できるワクチンを設計することが、エンデミックを引き起こすコロナウイルスや新たに出現するコロナウイルスに対する防御作用をもたらす可能性があると結論付けている。
著者たちは、英国ロンドンの複数の病院の医療従事者58人を対象とした。これらの医療従事者は、英国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック(世界的大流行)の第1波においてSARS-CoV-2に曝露するリスクが高かったにもかかわらず、SARS-CoV-2感染検査で陽性とならなかった。今回の研究では、これらの医療従事者とそれに対応する別の医療従事者(SARS-CoV-2に感染したことが検査によって確認された医療従事者)におけるT細胞応答を比較した。感染を免れたと考えられる人は、検査結果が陽性だった人よりもT細胞応答が亢進しており、特にRTCに対するT細胞応答が亢進していた。
doi:10.1038/s41586-021-04186-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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