感染症:下水のSARS-CoV-2モニタリングで変異株の初期伝播が明らかに
Nature
2022年7月8日
下水に含まれる重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のゲノム物質のサーベイランスを実施すると、既知の新たなVOC(懸念される変異株)の感染率の変化を検出でき、塩基配列解析による臨床検査より最大2週間早く結果が得られることが明らかになった。この研究結果を報告する論文が、Nature で発表される。この論文には、高分解能で複数の変異株を検出できるスケーラブルな下水サンプリング過程の開発と実施が説明されている。
下水中のSARS-CoV-2のRNA濃度を測定して、地域レベルの感染動態を追跡することに成功したことが以前の研究で示されている。下水に含まれるウイルスのゲノム塩基配列を追跡調査すれば、地域社会レベルでの感染率の推定を改善し、新たに出現している変異株を検出できる可能性がある。しかし、このモニタリング法は、塩基配列データの質が低いことや複数の系統のウイルスが混ざり合った試料からそれぞれの系統を分離するという課題が未解決なため、本来の可能性が発揮されていない。今回、Rob Knightたちの研究グループは、下水からウイルス試料を採取して塩基配列解析を行うプロセスの改良を実施し、複数の系統を推測するための計算ツールを併用することで、これらの問題を克服した。
下水に含まれるSARS-CoV-2のゲノムサーベイランス実験が、2020年11月から2021年9月までの間、米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)キャンパス内で実施された。この実験期間は、エプシロン、アルファ、デルタ変異株が急増した期間でもあった。大学構内の建物(360棟)を対象とする下水採水器(131個)を使って試料が毎日採取され、そのデータが、地域社会での鼻腔スワブ(鼻腔から拭いとった検体)の臨床ゲノムデータと比較された。下水から得たゲノムデータは、臨床検体よりも早期に、より一貫して、当時の主要な新規VOC(3種)の検出につながり、臨床ゲノムサーベイランスで捕捉されなかった複数のウイルス感染拡大事例の同定にもつながった。さらに米国サンディエゴで、2021年9月から2022年2月まで下水のサンプリングが実施され、オミクロン変異株が検出された。これは、このオミクロン変異株が同市内で初めて臨床検出される10日以上前のことだった。
以上の知見は、下水に含まれるSARS-CoV-2のゲノム物質のサンプリングという方法が、臨床検査より費用対効果の高い代替手段となり、地域社会でのウイルスの感染拡大を捕捉でき、偏りが少ないウイルスの存在量推定ができる可能性を有することを示す新たな証拠となった。
doi:10.1038/s41586-022-05049-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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