生態学:近親交配がシャチの保全を妨げているのかもしれない
Nature Ecology & Evolution
2023年3月21日
米国とカナダの西海岸沖でみられるシャチの群れ「サザンレジデンツ(Southern Residents)」が消滅しかかっているのは、隔離個体群内の近親交配のせいかもしれない。このことを報告する論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。この知見は、別のシャチの群れで有効だった保全措置がこの群れで機能していないとみられる理由を説明する一助になる可能性がある。
シャチ(オルカとしても知られる)は、かつて北太平洋では漁や間引きが行われていた。1970年代前半以降の法的保護は、この海域のシャチ個体群の多くを回復させるのに役立ったが、サザンレジデンツとして知られる小さな群れはその限りではない。頭数が100に満たないこの群れは、他のシャチの群れよりも生存率と出生率が低く、遺伝学的問題がその一因である可能性が指摘されてきた。
Marty Kardosたちは、サザンレジデンツの群れに属する生死合わせて100頭のシャチについて、ゲノムの塩基配列を解読した。そのゲノムを北太平洋の他の個体群に属するシャチのものと比較した結果、サザンレジデンツは遺伝的多様性が最低レベルで、近親交配が最高レベルであることが明らかになった。対象個体の生存率のデータを評価すると、この低レベルの遺伝的多様性と寿命の短さとの関連が示された。研究チームが示唆するところによれば、雌のシャチは生殖適齢期に達するまで約20年かかるため、サザンレジデンツの雌は、その個体群の成長が確保されるほど長生きしていない可能性があるという。
Kardosたちは、地理的生息域や、1960~1970年代の生体捕獲による個体群効果など、自然要因と人為的要因が重なってサザンレジデンツ群内の近親交配が増加するようになった可能性があることを示唆している。そして、近親交配を直接解消することはできないかもしれないと述べながらも、この海域のシャチを対象に行われている保護の重要性を強調している。
doi:10.1038/s41559-023-01995-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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