環境:ペンギンの個体数減少が南極海の鉄分循環に影響を与えているかもしれない
Nature Communications
2023年4月12日
ヒゲペンギンがリサイクルしている鉄分は、およそ年間521トンと推定されているが、南極においてヒゲペンギンの個体数が減少しているために南極海の鉄分循環が影響を受けている可能性があるという研究結果を示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。ヒゲペンギンの個体数は、1980年以降、気候変動のために50%以上減少したため、現在のヒゲペンギンによる鉄分のリサイクル量は40年前の約半分まで落ち込んでいる可能性がある点もこの論文で指摘されている。この研究知見は、海洋生態系の健全性、植物プランクトンの成長と炭素貯蔵が、ヒゲペンギンの個体数減少によって脅かされる可能性があることを示唆している。
鉄分は、栄養分に富んだ南極海地域で重要な役割を果たしている。これは、植物プランクトンの成長と大気中炭素の隔離が鉄分の利用可能性によって制御されているためだ。オキアミとヒゲクジラの排泄物は、南極海北部における鉄分のリサイクルの推進に大きな役割を果たしていることが以前の研究で明らかになっている。一方、ペンギンなどの海鳥もオキアミを摂取しているが、その影響に関する研究は行われていなかった。
今回、Oleg Belyaevたちは、南極海域におけるヒゲペンギンによる鉄分の排出を測定するため、ドローンを使ってヒゲペンギンのコロニーの画像を収集し、ヒゲペンギンのグアノの量を算出した。また、Belyaevたちは、このグアノの化学分析を行って、非常に高濃度の鉄分が含まれており、1グラムのグアノに約3ミリグラムの鉄分が含まれていることを明らかにした。南極海における急速な環境変化に関連して、世界のヒゲペンギンの個体数は過去40年間で半減したため、現在の年間鉄分産生量は約521トンに減り、1980年代の産生量の約半分になったとBelyaevたちは推定している。
この知見は、ヒゲペンギンのグアノが南極海の鉄分循環において重要な役割を果たしており、他のペンギン種も同じ役割を果たしている可能性があるというこれまで判明していなかった新事実を示唆している。Belyaevたちは、この役割が、ヒゲペンギンの個体数減少傾向によってさらに脅かされる可能性があると主張している。
doi:10.1038/s41467-023-37132-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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