生理学:頭足類は吸盤の化学触覚受容体で化学物質を感じる
Nature
2023年4月13日
頭足類の吸盤に含まれる化学触覚受容体(CR)の構造とこの受容体の進化によって頭足類がさまざまな動物種の捕食戦略に対応できるようになった過程を調べた研究について報告する2編の論文が、今週、Natureに掲載される。
多くの水生動物は、化学的な触覚に基づいた特殊化した感覚系を用いて表面を探索して、化学的手がかりを得ている。頭足類の吸盤の皮膚細胞からは化学触覚受容体が見つかっているが、タコ類は、この受容体に基づいた「触覚によって化学物質を感じる」感覚系で海底の探索をしている。この化学触覚受容体は、祖先由来の神経伝達物質受容体(ニコチン性アセチルコリン受容体)から分岐したもので、水に溶けない自然物を検出する機能を有しているが、頭足類において、こうした受容体がどのように進化してきたのかは明らかでない。
今回、Nicholas Bellono、Ryan Hibbsらは、クライオ電子顕微鏡を使って、タコの化学触覚受容体の構造を明らかにし、ニコチン性アセチルコリン受容体と比較して、どの特徴が環境刺激の知覚や神経伝達を可能にするのかを明らかにした。つまり、タコの化学触覚受容体が持っている分子結合ポケットは、疎水性(水をはじく性質)が極めて高く、脂肪性化合物を知覚できるようになっているのに対して、小さな極性分子(水など)は神経伝達物質受容体によって検出されることが判明したのだ。
Bellono、Hibbsらの別の論文では、タコとイカが、いずれも化学触覚受容体を使って海洋環境を感知しているが、タコの化学触覚受容体とイカの化学触覚受容体の構造が異なっており、それぞれ独自の生理学的役割に適した異なる分子の知覚を助けていることが報告されている。イカは、ニコチン性アセチルコリン受容体によく似た祖先由来の化学触覚受容体を発現しているのに対し、タコは、より最近になって分岐した化学触覚受容体を発現しており、この受容体が「触覚によって化学物質を感じる」感覚系と矛盾しないことが明らかになった。Bellono、Hibbsらは、遺伝的プロファイリング、生理学研究、行動解析を組み合わせて、待ち伏せ捕食に関連する可溶性苦味分子を検出するイカの進化上初めての化学触覚受容体を明らかにした。そして、クライオ電子顕微鏡によってイカとタコの化学触覚受容体の構造を比較した結果、祖先由来のケージ状分子複合体(イカの場合)から、不溶性分子を捕捉して接触依存性化学感知を可能にする、より新しい化学触覚受容体の疎水性結合ポケット(タコの場合)への進化的変遷が明らかになった。
以上をまとめると、Bellono、Hibbsらは、今回の研究は、特定の生態学的状況に適した生物の新たな行動がわずかな構造的適応によって駆動されるという過程を解明するための基盤になると主張している。
doi:10.1038/s41586-023-05808-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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