医学:神経精神疾患の治療に用いる強力な幻覚性物質の評価
Nature
2024年5月9日
毒を持つヒキガエルの毒液を改良した幻覚性物質が、うつ病や不安症に対する有効な治療選択肢になる可能性があることを示したマウスの研究について報告する論文が、Natureに掲載される。
幻覚性物質には、うつ病や不安症などの疾患を治療できる可能性があることが、最近の科学研究で示されている。これらの幻覚性物質は、セロトニン受容体との相互作用を介して作用すると考えられている。これまでの研究の大半は、セロトニン受容体の5-HT2Aに注目したものであり、これらの幻覚性物質の作用における別のセロトニン受容体5-HT1Aの役割を調べる研究は少なかった。
今回、Daniel Wackerらは、幻覚性物質である5-MeO-DMT(コロラドリバーヒキガエルの毒に含まれる物質で、強烈な幻覚体験に関連している)が5-HT1Aと相互作用する機構を調べた。Wackerらは、5-HT1Aの構造を調べた上で、5-MeO-DMTの特定の部位を修飾し、この修飾5-MeO-DMTをうつ病のマウスモデルに投与して、治療薬としての可能性を評価した。
Wackerらは5-MeO-DMTのバリアントを開発し、マウスにおける有効性を検証した。次に、LSDや臨床使用されている既存の5-HT1Aアゴニストとの比較検証が行われ、5-MeO-DMTのバリアントは、抗うつ剤と同じような活性を引き起こすことが判明した。そして、5-MeO-DMTバリアントが作用する際には、元の5-MeO-DMTが引き起こす幻覚作用を伴わないという重要な知見が得られた。また、5-MeO-DMTバリアントは、5-HT1Aに対する選択性が5-HT2Aに対する選択性の800倍であった。このことは、5-MeO-DMTバリアントの薬効が5-HT1A受容体との相互作用によってもたらされている可能性が非常に高いことを示唆しており、5-HT1A受容体が治療標的となる可能性が確認された。
以上の知見は、この種の幻覚性物質が哺乳類の脳の受容体を調節する機構を明らかにし、神経精神疾患の治療薬候補の開発への道筋を示唆している。これらの知見をヒトに応用できるかを評価するには、さらに研究を進める必要がある。
doi:10.1038/s41586-024-07403-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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