【物理科学】旅人には帰還者と探検者がいる
Nature Communications
2015年9月9日
人間の移動性パターンに関する広範囲に及ぶデータベースの解析が行われ、個人の移動行動に2つの異なるクラス、つまりreturner(帰還者)とexplorer(探検者)が存在していることが明らかになった。この観察結果によって、新しい移動モデルが作られ、感染症の流行拡大を阻止する上で役立つ可能性があると考えられている。この研究結果についての報告が、今週掲載される。
人間の移動に見られる個人差からは、比較的高レベルの統計学的予測可能性によって集団レベルの全体パターンの予測ができるようになっている。利用可能な追跡データセットが増えているため、定量的な移動モデルを開発し、検証できるようになったのだ。
今回、Albert-Laszlo Barabasiたちは、3カ月間にわたる67,000人の通話記録の匿名化データセットを解析し、1カ月間にイタリア中部を移動した約46,000台の自動車のGPS追跡データと比較した。そして、追跡対象者ひとりひとりについて、最も訪問回数の多い地点を調べることで得られた反復的移動先への総移動距離を比較した。その結果、「探検者」と呼ばれるサブグループの移動行動を反復的移動から推定できなかった反面、「帰還者」のパターンは十分に解明できた。既存の移動モデルでは、こうした差異を説明できなかったため、Barabasiたちは、移動パターンのシミュレーションによって得られた知見を再現する新しいモデルを開発したといえる。
今回の研究で、「探検者」は、その移動に反復性がないために感染症の流行拡大可能性に影響を与えることが判明した。例えば、トスカナの集団に関する広域的な移動ネットワークのシミュレーションからは、「探検者」の割合が増えると、感染症流行が蔓延する確率が高まることが明らかになった。この研究結果は、人間の移動に関する解明を進め、モデルを作成することが、今後の疾患の拡大の予測に役立つ可能性のあることを示唆している。
doi:10.1038/ncomms9166
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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